『発達障害とキャリア支援』

田中康雄監修/藤森和美,辻 惠介
A5判/264p/定価(3,200円+税)/2014年7月刊

評者 志賀利一(独立行政法人国立重度知的障害者総合施設のぞみの園)

 今から20年以上前,私は,知的障害者が企業等で働ける社会を目指すべく,障害福祉の領域から就労支援のあり方を模索していた。当時,産業構造が明らかに変化し,小規模零細事業主の善意に依存した知的障害者の就労が,破綻し始めていた。
 その後,障害者雇用促進法の改正が続き,知的障害者や精神障害者の雇用が義務化に向った。また,障害者基本法も改正され,発達障害者の多くは精神障害福祉としての生活設計を描けるようになった。
 障害者の就労支援の対象は,身体機能の障害のある人から,認知機能ないしは意思決定における何らかの支援が必要な人たちが中心になった。特に,15年前に,当時急激に増えていた離職障害者の再就職を積極的に促すことを目的とした,画期的な仕組みであるトライアル雇用が登場した頃から,就労支援のあり方が大きく様変わりしたと感じている。
 本書は,発達障害と就労をテーマに,理解編と実践編の2部構成をとっている。前半の理解編は,発達障害の理解だ。精神科医療を中核とした,児童期から成人期に至る発達障害者の特徴と多様性,教育や医療,福祉等の問題点等を7人が異なる角度から整理し,まとめている。後半の実践編は,発達障害を支えながら企業等に送り込む,さまざまな機関やアプローチを紹介し,課題を整理したものだ。具体的には,障害者雇用と職業リハビリテーションの視点から,中等教育機関の特別支援教育の視点から,県全域をカバーするボランタリーな若者就労支援の視点から,障害者に特化した民間人材紹介会社の視点からの4つだ。
 特徴的な点は,発達障害者の就労を支える私たちの国のメインストリーム機関である,ハローワーク,障害者職業センター,障害者・就業生活支援センター,地域若者サポートステーション,発達障害者支援センター,就労移行支援事業の視点が存在しないことだ。さらに,最初の職業リハビリテーションの視点以外は,就労支援プロセスの中核となるこれらメインストリームの機関の活用についてもほとんど取り上げられていない。ところが,就労支援の脇役であるこれらの機関の視点が面白く,勉強になることが多い。
 本書のタイトルに「キャリア支援」と記されているのは,具体的で詳細な就労支援の方法論や企業等における職業生活継続の支援事例等の紹介ではなく,青年期・成人期で生きづらさを抱え持つ多様な発達障害者の大まかな全体像を伝えたいという意図であると理解した。最後の3人の鼎談が,急激に変化していく社会や雇用環境の中で,発達障害のある若者の生き方を,医療・教育・福祉の分野でどのようなスタンスで支えていくべきかといった悩みを,まさに綴っている。
 現在,障害者の就労支援の主な対象者は,職業生活における意思決定に何らかの支援を必要とする人たちだ。本書は,この支援のあり方を広い分野から考える機会を提供している。