あなたは職場,家庭,交際,あるいは人生のその他の領域でストレスを感じているだろうか?ストレスを減らす方法を身につけないと,深刻な病気になる可能性があると医師から警告されたことがあるかもしれない。ストレスのためにエネルギーや集中力が奪われたり,繰り返し頭痛や肩凝りを感じたり,家族,同僚,友人,いや見知らぬ人と関わるのですらイライラしたり疲れ切ってしまって,大切な人間関係が損なわれることにあなた自身が気づき始めているかもしれない。もうこんなことに耐えられないと気づいて,本書を取り上げたのかもしれない。しかし,自分が一体何をしようとしているのかと心配しているかもしれない。ワークブックだって? これ以上のことをしてかえってストレスが強まったりしないだろうか?
 この重要な疑問に対する答えは「いいえ」である。これからあなたが読もうとしている本には,人生のストレスを発見し,解決し,軽減することを一歩一歩進めていくという試みが書かれている。ストレスに圧倒されてしまうと皮肉なことに,大事な睡眠時間を削ってまでプレッシャーを減らそうとして,かえって事態を悪化させてしまいかねない。それに気づく前に,外部からのストレスにではなく,必死になって解決策を見出そうとしてもそれができず,そのためにかえって自分を責めてしまい,自分の中から生じたストレスにがんじがらめになってしまう。
 本書はそれ以外の選択肢を示す。すなわち,私たちの多くが自分自身の中に見出すことのできる,罠から脱するためのストレスを少なくする方法についてである。それは,本当のプレッシャーが何であるかを正確に見つけるだけではなく,ストレスを減らすための現実的な方法を築くのに役立つ。私は読者にストレスをゼロにすることを約束しているのではない。というのも,重要な目標を達成するのに必要なストレスもあるので,ストレスをなくすなどということは非現実的であるし,馬鹿げたことでもある。しかし,ストレスを減らすことはできる。そうすることによって,健康や高い生産性を手に入れ,人生で最善のことを楽しむことができる。
 多くの戦略から選び出すことができて,私たちが遭遇することがあるストレスに満ちた典型的な状況にそのような戦略をどのように応用するかについても本書は示す。取り除くことができるストレッサーと囚われきってしまうストレッサーがあるという現実を受け入れていこう。その両者がもたらす悪影響を減らすことにも本書は役立つ。
 本書を読み進めていくことは,やりがいがあるが,挑戦の多い経験となるだろう。読者が学習するスキルは人生の多くの領域で改善をもたらすという意味で意義があるだろう。心臓病や脳卒中の危険を減らし,睡眠を改善し,時間をより効率的に管理し,問題解決に自信を持つといったことを想像してみてほしい。休日でもプレッシャーが今より減り,リラックスしていると感じ,その時を楽しむことができると想像してみてほしい。素晴しいことと思えないだろうか?このような目標を達成するスキルを学ぶという意味で,本書は多くの挑戦ももたらす。読者はこれまでにストレスマネジメントプログラムを試みたことがあるだろうか?しかし,おそらく,望んでいた結果を得られなかったかもしれない。読者は今,専門家による治療を受けているだろうか?しかし,人生でストレスに満ちた状況に対処するのを助力する方法を実際に知っている人を見つけるのはおそらく難しいだろう。読者は援助を求めようと思ったかもしれないし,そうしてはこなかったかもしれない。多くの人々は,もはや手遅れになってしまって,はじめて自分がどれくらいストレスに圧倒されていたのか,どれくらいの害が生じていたのかに気づく。それこそが,私が本書を書いた主な理由のひとつである。
 これはあなたがストレスについて何かをしようとする最初の試みかもしれない。いずれにしても,本書を手にしたということは,多くの科学的な研究に支えられたプログラムをあなたが選んだということである。自分のストレスを管理しようとする多くの人々を私は助力してきた。したがって,私はストレスの性質やそれを治療する方法について理解している。本書を書く際に,私は研究文献に関する私の知識や臨床的経験を再検討して,読者がもっとも使いやすいようなストレス対処の効果的な技法を目指した。私は治療に有効であると証明されている戦略を,読者のために自習書の形にまとめていく方針を採った。私はいわば読者のコーチであり,読者がこの問題を克服するのに役立つすべての技を教えようとしている。そして,読者がやり抜くように励ますという意味で,私はチアリーダーでもある。

私は誰?


 ほとんどの人と同様に,私もストレスを経験してきた。私は大学で4年間,大学院と卒後研修で7年間を過ごし,今は妻とふたりの娘がいる。しかし,私が2000年から2006年までメイヨ・クリニックで臨床心理士として働いていた時に,肥満,癌,心臓病,その他の病気にストレスがきわめて重要な役割を果たしていることを目の当たりにした。メイヨ・クリニックの医師たちもこの点を理解していて,患者を心理学的評価のために私たちのチームによく紹介してきた。私たちがストレスマネジメントプログラムを開発すると,医師たちはぜひ自分の患者に応用してほしいと依頼してきた。そして,患者が医学的問題を管理し克服するためにそのプログラムがいかに役立ったかを医師たちはしばしば私たちに伝えてきた。
 私は現在,ノースカロライナ大学(University of North Carolina: UNC)チャペルヒル校の心理学部教授で,副学部長でもある。私は,不安やストレスといった問題を抱える人々に対する最新の心理学的治療を提供する外来プログラムを実施している,UNC不安・ストレス障害クリニックの部長でもある。自分でも患者を治療するとともに,未来の臨床心理士となる博士課程の大学院生の研修やスーパービジョンも行い,ストレスや不安をいかに理解し,研究し,効果的な治療法を実施するかを教えている。私たちのチームは予防や治療に関する研究も実施し,このような問題に伴う心身の苦痛を減らすことを目指している。
 私は自分の仕事を愛していて,読者のような人々が本書に掲げられた原則や技法を応用するのを助力し,人生のストレスや不安がもたらす悪影響を減らし,心身の問題を治療したり予防したり,人生の質を改善する手助けをすることに私はとてもやり甲斐を感じる。私が自分の仕事に興味を抱き,仕事を愛していて,臨床家としても科学者としても幸い多くの研修や経験を積んでいたとしても,すべての人の治療に直接携わることはできない。そこで,より多くの人々にストレスマネジメントについて知っていただくために,本書を著した。本書には私たちの学問領域が提供できるすべてが書かれているとあなたが気づくことを望んでいる。

本書がどのように役立つのか?


 私の臨床や研究においてひとつのことがとても明らかになった。それはストレスに満ちた状況に対して個人は微妙に異なる形で反応するということである。だからこそ私はストレスを管理するさまざまな技法をあなたに教えようとしているのである。あなたはある技法が他の技法よりも効果的であると感じるかもしれないが,ほとんどの技法は認知行動療法(cognitivebehavioral therapy:CBT)の範疇に含まれる。CBTは人生に変化をもたらすための積極的で,実践的で,技法に基づいたアプローチである。あなたが本書を読み進める際に鉛筆かペンを手にして,自分専用に用いるために空白のワークシートや表をコピーしておき,本書を通読した後にもそれを利用できるようにしておくことを勧める。
 本書は自習書,すなわち,あなたが自分自身のために用いることを目的に書かれたものであるのだが,専門家による援助が必要な場合に,専門の精神保健従事者による治療の代用にはなり得ない。読者は本書を以下のように用いることができるだろう。

 ..セラピストによる治療の補足として用いる。実際のところ,私が本書を書こうとした動機として,私の患者の治療が進んでいくにつれて,本書が患者にとってよい情報源になるだろうと考えた。あなたが治療を受けたのにあまり効果が上がらなかったのならば,その治療者がストレス治療の専門家ではなかったからかもしれない。効果的な治療の重要な要素であるのだが,あなたが敬愛し尊敬する臨床家に出会えたとしたら,あなたは治療関係を深めるために本書を臨床家と一緒に使い,両者が共通の言語と共通の目標を手にすることができる。治療の手引きとして,本書は治療を前進させ,ある種の構造を与えてくれるはずである。

 ..ただちに専門家による治療を必要としないストレスに対処するのに役立てる。多くの人々がストレスの問題について専門家の治療を求めない理由のひとつとして,何とかストレスと共存していく方法を見つけているという点がある。しかし,これはそのような人々の生活が障害されていないとか,あるいは,改善から利益を得られないという意味ではない。第Ⅰ部では,読者のストレスの重症度,それが読者にどのように影響しているのか,診断的評価のために精神保健の専門家を受診すべきかといった点について理解できるように解説する。この点について考慮しなければ,本書による自己流の治療は読者にとって不適切であるかもしれない。気分がひどく落ちこんでいたり,自殺を考えているのであれば,もちろん,ただちに医師に受診すべきである。

 ..読者がストレスの問題を抱えていて,より多くの情緒的なサポートを探し求めている。本書で,あなたは実際の出来事や実例を読むことができる。実際の人々(ただし,プライバシーの保護のためにそのアイデンティティは慎重に変更されている),実際の症状,私が目撃してきた実際の効果などから成る。これらの実例を通じて,ストレスをこれまで以上に管理しようとするあなたの戦いはけっして孤独なものではないとわかるだろう。私がカウンセリングをしている人はしばしば,それぞれに違った形ではあるが,自分の生活がストレスでいかに影響を受けているかということを恥ずかしく感じている。しかし,彼らはそのようなことで非難されるべきではないのだ。恥辱感や自責感は自己改善の妨げとなり,ストレスの問題がごく普通の人々の生活に影響を及ぼしていることを理解できれば,自己改善も容易になる。

 ..サポートネットワークを促進するために用いる。本書は,読者の友人,家族,精神保健の専門家が,ストレスがあなたにどのような影響を及ぼしているかについて十分な知識を得て,あなたが何を経験しているのかよりよく理解し,その問題を管理するのに役立つ方法を学ぶのに役立つ。

本書の内容


 あなたはストレスマネジメントプログラムを始めることに複雑な感情を抱いているだろうか?行き詰まりを感じていながら,変化をもたらそうとすることがさらに大きなストレスを生み出してしまうかもしれない。自分の人生の難しい状況に対処できるようになりたいと考えてはいるが,そうするにはどのような犠牲を払わなければならないのだろうか?こういったさまざまな複雑な感情を抱いて,あなたは混乱し,自分では何もできないと感じているかもしれない。本書の方針は,あなた自身の感情をより深く理解するように助力することである。あなたがおそらく現在行き詰っているストレスを超えた点についてまで理解するように私は助力したい。
 本書は次の3部からなる。第Ⅰ部は第1章から第4章までであり,読者がストレスとは何か,ストレスがどのような影響を及ぼすか,ストレスに対して何ができるかを理解する手助けをする。ストレスは多くの異なる状況で引き起こされる可能性があるので,あなたの特定の「ストレッサー」について知り,自分自身の必要性に見合ったストレスマネジメントプログラムを築き上げる手助けをする。第Ⅱ部では,ストレスを減らすのに役立つことが証明されている7つの技法の要点を取り上げる。すなわち,問題解決(第5章),効率的なコミュニケーション(第6章),時間管理(第7章),認知療法(第8章),リラクセーションと瞑想(第9章),健康的な生活態度の保持(第10章)である。詳しい事例の提示,ワークシート,多くの例によって,個々のアプローチを具体的にどのように用いるか一歩一歩理解できるように示していく。第Ⅲ部では,7つのストレスマネジメント技法をどのように実施し,一般的にストレスを感じる3つの領域にどのように応用するかを示す。すなわち,職場(第11章),対人関係と家族(第12章),危機的状況(第13章)である。第Ⅲ部の最終章(第14章)では,読者が学んできたことを「ストレスの少ないライフスタイル」にどのように統合していくかに焦点を当て,ストレスに満ちた状況のもたらす影響に対して一生にわたる回復力を強めていくかという点に焦点を当てる。
 本書でどのような内容を取り上げるか理解したので,次は実際に開始する番である。第1章は「ストレスの少ない」人生,すなわち,心身の混乱がより少なく,平穏で,成功や満足に満ちた人生への第一歩となる。