本書は,Jonathan S. Abramowitz 著『The Stress Less Workbook: Simple Strategies to Relieve Pressure, Manage Commitments, and Minimize Conflicts』(The Guilford Press, 2012 )(ストレス軽減ワークブック:プレッシャーを和らげ,関わりを管理し,葛藤を最小限にする単純な戦略)の全訳である。著者のアブラモウィッツ博士は,認知行動療法による強迫性障害の治療やストレスマネジメントの専門家として広く知られている。
 自習書としては厚い本であり,監訳者あとがきを付け加えることで,大部の本をさらに厚くしてしまう意図は私にはない。本書の特徴をごく短くまとめてみよう。本書を読んでいただきさえすれば,その意義は自明であるはずだ。
 認知行動療法理論によると,ある人が何らかの出来事を経験した時に,「出来事→感情→認知→行動」の流れにはその人独自の一連のパターンがあるという。個々人には独特の認知の歪みがあり,非適応的な認知パターンが心のバランスを崩し,最悪の場合には,うつ病の発病にもつながりかねない。そこで,この認知の過程を再検討することによって,ストレスを緩和させたり,うつ病をはじめとする心の病を治療したり,予防したりしようとするのが,ごく簡単に言うと,認知行動療法の本質である。
 本書はストレス軽減のための自習書であり,読者が日常生活の中で抱えるさまざまなストレスに対処するための具体的な方法を提示している。本書ではストレスについての詳しい解説から始まり,各種のストレスに向き合うための技法が詳しく解説されている。それをライフスタイルに組みこんでいく具体的な方法が示されている。多くのワークシートも掲載されていて,それを利用して読者のストレスを明らかにし,どのように対処していくべきかが段階的に理解できるようになっている。
 専門の精神科治療を受けるほどではないが日常生活のストレスにどのように対処すべきか困っている人,精神科治療を受けながらその補助として本書を活用しようとする人,また,認知行動療法を実践している臨床家が治療の補助として本書を用いることもできるだろう。ただし,著者が強調しているように,本書が精神科治療の代替品ではないことについても十分に留意すべきである。すなわち,自殺の危険が高いような人が,治療を受けずに,本書を用いて自力で立ち直ろうとすることは,誤りである。
 最後になったが,本書の翻訳出版を提案してくださり,翻訳の過程でも多くの尽力をいただいた金剛出版代表取締役社長の立石正信氏に深謝する。立石氏は私の最初の著書『自殺の危険:臨床的評価と危機介入』(金剛出版,1992)の出版以来,常に激励してくださってきた。
氏の熱意がなければ,本書の日本語版はそもそも世に出ることはなかっただろう。私が10年間勤務した防衛医科大学校から,筑波大学に所属が変わった直後にこの翻訳の企画を提案された。新しい職場で私自身がそれまでとは異なるストレスに向き合う日々の中で,本書を翻訳しながら,さまざまなストレスマネジメント技法を学んだことが懐かしく思い出される。

2013年11月
訳者を代表して 高橋祥友