『心理療法家の言葉の技術[第2版]―治療的コミュニケーションをひらく』

ポール・L・ワクテル著/杉原保史訳
A5判/450p/定価(5,800円+税)/2014年1月刊

評者 岩壁 茂(お茶の水女子大学)

 評者が本書に出会ったのは,今から20年くらい前であった。当時はまだ大学院生で,クライエントに話しかける一言ひとことがぎこちなく,それがどのようにクライエントに響いているのか見当もつかなかった。また臨床概念の多くは,とても抽象的で実感がもてず,面接のなかで起こっていることに結びつけて考えるのは難しかった。そんななかで本書を手にしたが,それはまさに開眼体験であった。はじめて理論概念と面接でのやりとりのつながりが見えはじめ,自分が伝えること,そしてその伝え方がどのようにクライエントに影響を与えうるのか実感できた。クライエントと接することの不安よりも楽しみが増えたことを今でも覚えている。
 筆者のポール・ワクテル氏は,精神力動療法と行動療法,そして家族療法を統合した心理療法統合の発展の第一人者である。本書は,セラピストがどのように言葉を使って自身の臨床的理解を分かりやすく,そしてもっとも変容を促進する治療的コミュニケーションの基本と応用法が解説されている。循環的力動理論の解説にはじまり,抵抗,中立性をはじめとした臨床的に焦点となる概念を,その歴史的発展から臨床実践で現れる現象までをつなぎながら解説している。そして,ワクテル氏は,臨床指導の実例を数多く提示して,問題に関してクライエントを責めるような表現や,変化を促進するよりもむしろ変化に対する不安や抵抗感を強調する言語表現といった,セラピストが陥りやすい課題をどのように改善できるのか,示してくれる。
 ワクテル氏は,変容促進的ではないセラピストの発話の背景にはクライエントや患者を「病を患っている存在」「依存的」であると決めてかかる傾向があると言う。そのため,セラピストは知らず知らずのうちに隠された批判や見下すようなメッセージを送ってしまう。このようなセラピストがもつ暗黙の前提に気づかせてくれるのも本書の利点のひとつである。
 本書初版の邦訳は2008年に刊行されたが,今回は,第三世代認知行動療法と呼ばれる弁証法的行動療法やエモーション・フォーカスト・セラピーなどの体験療法も含め,近年の心理療法アプローチの発展,そして愛着理論に関する2章が加えられた。日本語訳も初版から手が加えられ,かなり読みやすくなった印象を受けた。これだけの大書を丹念に翻訳した杉原氏の功績はきわめて大きい。本書は,臨床経験や知識にかかわらず多くの人にとってとても有用な一冊となるはずである。評者は,まず日本の臨床指導者に読んでほしいと思う。スーパービジョンをはじめとした訓練場面で,臨床指導者が,ワクテル氏が推奨するやり方で不安や無力感や混乱を抱えた訓練生とかかわるとき,きわめて大きな訓練効果があるのではないか。訓練生は,指導内容から,そして指導のやり方のモデリングからも学び,それを自分の臨床活動に役立てることができるだろう。

原書 Therapeutic Communication : Knowing What to Say When. Second Edition