『心理療法家の言葉の技術[第2版]―治療的コミュニケーションをひらく』

ポール・L・ワクテル著/杉原保史訳
A5判/450p/定価(5,800円+税)/2014年2月刊

評者 溝口純二(東京国際大学)

 待ちわびた翻訳である。原書の初版が出版されたのは1993年,杉原保史先生の翻訳が刊行されたのが2004年である。そのとき私は書評を書かせていただいたが,このたび,第2版の翻訳の書評も書かせていただく機会を与えられて,とても嬉しい。原著初版出版後,ワクテルが多くの著作や論文を書いているのは知っていたので,そうした彼の臨床家としての発展(約20年の時間が経っている!)を盛り込んだ第2版が出ないかな,と密かに思っていた。すると2011年に原著第2版が出版された。私は原書を買い求めたが,すぐに,きっと杉原先生がまた訳されるだろう,その訳もきっとまた素晴らしいだろうと考え,読むのを止めて待っていた。その読みが当たった。
 この第2版の書評を書くにあたって,私は前回の書評を見直した。そこで述べている初版の素晴らしさは,そのままこの第2版にも当てはまる。本書は初版と同じく,心理療法家が患者を理解し,その理解を患者に伝えるときに,何を伝えるのか,よりもどのように伝えるのか,を中心に論じた本である。そして初版の基礎の上に成り立っていて,全体に大幅にアップデートされている。つまり,初版の内容をさらに発展させたものである。初版と大きく変わったところは,2章,3章の追加である。2章は「絶え間なき心理療法の発展」,3章は「愛着への注目」であり,これらは「この領域における主要な理論的潮流における最近の発展を概観する」ために追加されたのである。この2つの章を読むと,最近の心理療法の世界における中心的なテーマがよくわかる。ワクテルの治療法は,循環的心理力動論と呼ばれている統合的アプローチだが,彼自身,自分の方法は「ますます,システム論的観点と体験的観点をも取り入れるようになってきた……,また,……心理力動的な考え方の関係論的なヴァージョンを特に強調するようになってきた」と述べている。このような自身の方法の発展を明らかにし,より独自な体系として明確にしたいということもあって,2章と3章が追加されたのだろう。ただ,2つの章が追加されたために,初版と比べて理論の比重が多い印象を受ける。これは止むを得ないところだろう。
 そこで,私の推奨する読み方だが,関係性をますます重要視している本書は,本書と読者との関係性をも重要視するだろう。読者の立場からすれば,読者はそれぞれが自分の主観的な読みによって本書を読解することが望ましい,ということになる。読解の過程で,ワクテルとそして杉原先生との交流が生じて,各自の主観を越えた共同的な観点がもたらされてくるだろう。ワクテルはそこまで想定して本書を執筆しているように思う。足りないものがあるとすれば身体だが,これは心理療法の実践において満たしていくものである。

原書 Paul L Wachtel : Therapeutic Communication : Knowing what to say when