『集団精神療法の進歩−引きこもりからトップリーダーまで』

小谷英文著
A5判/330p/定価(4,400円+税)/2014年3月刊

評者 北西憲二(森田療法研究所・北西クリニック)

 集団精神療法は,その効果が広く認められているにもかかわらず,理論的構築とそこから展開する技法論について不十分だったと言わざるを得ない。それは集団精神療法という治療法が多次元的で多因子的で,その解析が難しいことにも起因しよう。
 そして著者の小谷氏が指摘するように,集団精神療法には大きな誤解が存在する。それを紹介することは,本書の問題意識を示す上で適切だと思われるので,その5項目を紹介する。

誤解1:精神的負担が大きいので,力がついてからでないと集団には入れない。集団精神療法の適応は不可?
誤解2:集団精神療法に沈黙はつきもので,主体的な参加を尊重するものであるから,沈黙は長く続くものである?
誤解3:しゃべらない患者は,集団精神療法には不適?
誤解4:集団精神療法の中だけで患者が変わっても,効果とは言えない。
誤解5:セラピストは中立性保持のために受け身でなくてはならない。

 そしてさらに「攻撃性」を集団に限らず日本の心理臨床全体で,反治療とみなす誤解があると述べている。集団精神療法は,攻撃性を適切に扱うことにより,怒りの感情に変える独自の装置となり得る。
 今まで私たちが縛られがちなこのような言説に対して,小谷氏は理論と実践から答えようとする。本書では,この「攻撃性」と「愛の喪失」を集団精神療法の視点から,われわれが向き合う問題として追求しようとする。この二つは現代の最も重要なメンタルヘルスの問題であり,その解決を模索することが喫緊の要事である。
 小谷氏は,言うまでもなく精神分析的集団精神療法の日本における第一人者であり,また幅広く諸外国の専門家とも積極的に交流し,発言してきた人である。氏は集団精神療法の理論と技法論をそのような幅広い交流と日常の実践を通して洗練させ,本書でそれを表現しようとしている。また2011年3月に日本を襲った未曾有の災害に対して,国際的な災害支援グループの交流と支援を受けながら,その集団精神療法の実践を展開していることは注目に値しよう。それについても1章を割いて,紹介している。
 氏は「集団精神療法は,方法として集団の変化発達を追求するが,あくまで目的は個人の精神療法である」,「集団精神療法の集団に患者やクライアントをいれるのではなく,個人の安全空間の確保が一義的に追求されるべきである」の2つを集団精神療法のエッセンスとする。そしてこれに基づいた5つの基本的技法を挙げている。その要約を記す。

1)対象者の防衛機制を積極的に受容し,さらに利用し,対象者固有の自我境界空間の線引きをする。
2)沈黙を最小限にし,誰かが何かを発言するように助け,グループに自由連想発言内容が常に飛び交っているようにする。
3)自発的発言がなく沈黙が生じる場合,誰もが乗れるような大きな話題やテーマをセラピストがやはり自由連想によって提供し,間を取る。
4)メンバー間の早すぎる直面化,個人的領域への侵入的質問には,間に入り,お互いに安全距離を保つことの確認を助ける。
5)各メンバーのバラバラの話しを展開した上で,大きな全体セラピィテーマをメンバー個々の発言を使いながら包み上げる(wrap up)。

 本書は第T部 基礎理論,第U部 アイデンティティグループ,第V部 集団精神療法技法,第W部 人格機能水準と集団精神療法,という幅広い領域からなっている。冒頭に挙げた誤解1〜5,そして集団精神療法の2つのエッセンス,そしてこの5つの基本的技術を念頭に自分自身の実践と照らし合わせながら本書を読むと,よりその理解が増すであろう。
 また吉松和哉氏が緒言で本書の優れた解説を展開しており,本書をひもとくときに,あるいは少々迷路に入ったように思えたときには緒言に戻り,その解説を読むことをお勧めする。
 本書は集団精神療法あるいはグループ・ワーク,グループに関わることの多いメンタルヘルスの専門家,教育関係者,被災地の援助者などグループに関心のある人たちに手にとってもらい,自分の実践と比較しながら読んでもらいたいと思う。