『集団精神療法の進歩−引きこもりからトップリーダーまで』

小谷英文著
A5判/330p/定価(4,400円+税)/2014年3月刊

評者 権 成鉉(医療法人ミネルヴァ クリニック ソフィア)

 著者は治療共同体の治療実践で高名な精神科医である。私は,聞き及んでいる治療共同体についてよい印象がなく,批判的な立場であった。理由は治療的民主主義への懐疑である。これはカーンバーグの入院治療の概念から来ている。しかしながら,読み進むうちに,このような考えは霧散した。理由は二つある。一つは,責任の問題が明示されていたからである。いま一つは,著者が当時の精神医療をどうにかしたいという思いから,英国に渡り,そして治療共同体を体得,帰国し,それを実践し続けているという著者の精神科医としての生き方に感動を覚えたからである。
 本書は「T集団精神療法の基礎」「U治療共同体:理論と実践」「V集団精神療法の応用」の3章からなる。T章で最も印象に残ったのは,セッションの始まりと終わりを宣言することが治療者のもっとも大切な役割であるという言葉である。簡潔にして,意味深い指摘である。理屈よりも感情を大切にすることなどの治療的態度についても述べられているが,私にはこれが治療者の役割のすべてである,と言われているように感じた。これ以上は触れられないが,本書を読まれて,ぜひ一考されたい。次には,「甘え」とビオンの基底的想定との関連である。ここで述べられている「空気を読む,読めない」と「甘える,甘えられない」は基底的想定とどこか繋がっているようであるが,著者が戒めているように,安易に理解したつもりになることなく残された課題として私も考え続けたいと思う。
 私は感動を覚えながらも,民主主義,責任の問題がいつ出てくるか,という関心を持ち,読み進んだ。著者はUの治療共同体で,治療における権威の存在の重要性,民主的という美辞に隠れる無責任体制の危険性について明言している。聞いていた治療共同体とは全く違うものである,と納得した。そして現在でも著者は,マックスとクラークさん,そして土居先生と日々対話しているのだろうと感じられた。また英国と日本の治療文化論的視点も興味深かった。
 V章では,治療共同体を軸とした治療実践が述べられている。統合失調症の入院治療では日本的お世話の問題,インスティテューショナリズムの病理性と本邦での問題,グループワークのあり方他である。そして看護におけるチーム・ワークに触れた後に,本書の最後にある手紙が載せられている。コミュニティミーティングに参加した外部の三人の看護師からの手紙への返信である。T章からV章までのまとめとして,読者への便りのようにも読める。開始を告げ,大集団でおこるさまざまな感情の交流を通して,「隠された議題」としての抑うつを理解するという過程が記されている。
 全くと言っていいほど,専門用語が使われていない。著者の言葉で,語られている。この点で読みやすくはあるが,含蓄するところは深い。著者が「彼ら」と対話しているに違いないように,私も対話し続けたい本の一つである。