『組織のストレスとコンサルテーション−対人援助サービスと職場の無意識』

アントン・オブホルツァー,ヴェガ・ザジェ・ロバーツ編/武井麻子監訳/榊惠子ほか訳
A5判/320p/定価(4,200円+税)/2014年3月刊

評者 福山和女(ルーテル学院大学)

 序文には,本書が組織の影の部分に焦点を当てていると記されている。この視点は,1980年にタビストック・クリニックで始まった「組織コンサルテーション・ワークショップ」に由来するものである。それは,1920年創設のイギリスでの伝統あるタビストック医学心理学研究所の人間関係研究において,スタッフによって引き継がれてきたコンサルテーション・プロジェクトの活動である。
 この活動は,精神科医であるオブホルツァー氏とプログラム・コーディネーターであるロバーツ氏が10年以上もの長きにわたり実施されてきた。対人援助サービスを提供する組織として精神医療分野の機関に焦点を当て,その組織が抱えているストレスや疲弊について,集団精神療法の視点から解決した。本書は,そのコンサルテーション実践について,理論的に社会科学の見方と精神分析の見方を組み合わせ解説したものである。
 組織の一員である構成メンバーのそれぞれのストレス状態を取り上げ,彼らの痛みを個人に帰属するものというよりも,組織に帰属するものとしての視点から組織自体をシステムと捉え,システムの無意識に焦点を当て,変化させるための策を講じた。
 このコンサルテーション活動では,対人援助の機関・施設,その中で展開されている事業活動やプログラム等におけるさまざまな困難な現象を,組織という巨大な集合体のシステムから捉え,現場実践で起こりうる課題や危機,問題について組織の無意識とストレスとの関係を分析し,精神分析の視点から,個人のみならず,組織のストレスを解説し,社会との関係性という点では,システム論的な視点を援用し,理論の交互作用現象を起こさせ解決へのプロセスを辿る。これは,これまで相反する二つの理論とされてきた精神分析とシステム理論を統合してコンサルテーションを展開している点で独自性がある。
 「人間の組織」での仕事の根底にあるプロセスを理解しようとするだけでなく,その発展的な考え方をクライエントにも適用した本書は,コンサルタントのためだけではなく,組織で働くスタッフ自身やその仕事を理解するのに大いに役立つものである。有害な組織プロセスに巻き込まれる対人サービスで働くスタッフとマネジャーにも,とっつきやすい本とされている(p.xi)。
 事例描写:病棟閉鎖を決定した組織で,スタッフは閉鎖準備の業務をまったくせず,何カ月もの間毎日,閉鎖反対請願運動のための計画やロビーストへの働きかけなどについて話し合っていた。依頼を受けたコンサルタントは毎回スタッフのミーティングに付き合っていた。ある日のミーティングで,安楽死のメリットという明らかに本題から外れた話題をスタッフが持ち出した。この現象を,コンサルタントは,病棟閉鎖が完了したときに予想されるスタッフの安堵感の間接的な表現であると解し,スタッフにその感覚を伝えた。スタッフにとってコンサルタントの言葉はショックでもあったが,徐々に彼らは閉鎖へと業務を進めていった(p.17)。
 これは,スタッフたちの問題行動を解決することよりも,喪失に対する悲嘆作業の考えをこの組織システム終焉の取り組みに援用した,まさしく組織システムの死と捉えることの効用であったと考えられる。よって,本書は,対人援助サービス提供者のスタッフがほっとできる癒しで満たされた書物であるともいえる。

原書 Obholzer A, Roberts VZ:The Unconscious at Work:Individual and Organizational Stress in the Human Services