『自殺の危険[第3版]−臨床的評価と危機介入』

高橋祥友著
A5判/450p/定価(5,800円+税)/2014年2月刊

評者 徳永雄一郎(不知火病院)

 良い本は読者を飽きさせず,あっという間に時間が過ぎてしまう共通点があるが,本書にはそのような深みがある。理由は二つある。
 第一点は本書における質の担保された内容の深さである。自殺の定義の難しさに始まり,自殺の心理,自殺統計,思春期の問題,スタッフや家族への対応まで深い理解のもと自殺学が全般的に網羅されている点にある。第二点は著者の患者理解の深さにあると考えている。種々の文献の列挙はもとより,症例の提示が実に丁寧かつ細やかに記載されている。このことは著者が正確な病歴の聴取のもと,患者と冷静にかつ深く向き合っていることが理解できる。最近の傾向として患者理解が表面的になっている傾向を案じることも多いが,そのような意味でも若い精神科医にも本書を読んでもらう意義は非常に大きいと考えている。
 内容に関しては,自殺の定義の難しさを再認識させられた。「自身の死の意図と自殺の結果をどのように予想しているか」が重要であるという著者の言葉に重みがある。また自殺企図と自殺既遂との相違についても論じられている。確かに,手首自傷と重大な自殺既遂とは,一致する点もあるが,心理背景が異なることも多い。40年前,私が研修医の時代に,福岡大学の安岡&西園が発表した“手首自傷症候群”は専門家だけでなく,社会の関心を集めたことが思い出される。
 「自殺に至る感情」についても著者の理解度の深さが印象的である。自殺に至るには,極度の孤立や自分に対する無価値観,あるいは殺害に至るほどの怒りの感情があることをマルツバーガーの理論(1986年)を紹介しながら話が進む。K.メニンガーのいう,どの自殺にも他者殺害願望があるとの指摘とも一致している。改めて,個別的に正確に病歴を把握した上で,患者の細かな感情を理解していくことの重要性を学ばせられる。
 自殺の危険性に関しては,一般人口とうつ病患者の自殺率を比較しても30倍から数十倍高いとの結果が出ており,改めて自殺問題の難しさを再確認させられる。その意味では,新型うつ病といわれるものが,必ずしも自殺の危険性が低いとはいえないと,鋭い著者の指摘が述べられている。自己中心的でわがままと思われ,治療者にはネガティブな感情が起こってくる最近の若年層のうつ病だが,私もむしろ本質的問題を他罰化して攻撃的になる人ほど,攻撃性が自身に向いた時には自殺が起こりやすいと感じている。
 子どもと親との関係性への論調も鋭い指摘がなされており,学ばされる章である。「自殺の危険の高い子どもの背景には,自殺の危険の高い親がいる」同様に「自殺の危険の高い親には,危険の高い子どもがいる」という論調は極めて示唆に富む指摘である。
 自殺が精神医学の領域を超え,わが国の社会問題となっているこの時期に質量ともに完成度の高い本が出版されたことを率直に喜びたい。また,出版までの著者の熱意にも敬意を表したい。