『統合・折衷的心理療法の実践−見立て・治療関係・介入と技法』

東 斉彰,加藤 敬,前田泰宏編著
A5判/190p/定価(3,000円+税)/2014年3月刊

評者 林 直樹(帝京大学医学部精神神経科学講座)

 本書は,編著者3人の企画によって2009年から3回にわたって日本心理臨床学会にて開催された自主シンポジウム「統合・折衷的心理療法の展開」における議論をまとめたものである。統合・折衷的心理療法とは,学派の垣根を越えて理論や技法を役立てようとする立場から考案される心理療法のことである。
 本書の最初には,統合・折衷的心理療法の分類が提示されている。すなわちそれは,@理論統合アプローチ:複数の心理療法の理論から新しい理論体系を作るアプローチ,A技法折衷アプローチ:理論とは独立に,多次元的なアセスメントからクライエントに有効に作用する技法を選択して使用するアプローチ,B共通要因アプローチ:治療関係要因(治療同盟,治療目標,治療手段についての合意),希望・期待要因(プラセボ効果),自己効力感の向上といった心理療法全般に認められる共通要因に着目してそれを強化しようとするアプローチである。さらに本書では,「見立て(アセスメント)」「治療関係」「介入と技法」の3つのセクションごとに上述の@〜Bの立場を代表する3人の編著者らの論述と症例提示が行われ,それぞれのセクションで指定討論が行われるという構成となっている。
 実際の心理療法においてさまざまな学派の理論,技法を応用することは,簡単な課題ではない。学派ごとに重点を置くポイントが大きく違うといった事情があるからである。しかし心理療法の統合・折衷は,共通要因についての実証的研究や,本書において繰り返し参照されているプロチャスカの「変化の段階」理論,ランバートの治療要因についての議論などが一種の共通言語の役割を果たしていることによって支えられてきたように思われる。
 例として東の折衷心理療法を挙げよう。そこでは,多元的なアセスメント,すなわちクライエントの現実的な状況(社会的な相互作用)と認知・感情・行動・身体の特徴や状態(個人内相互作用)について理解するためには「認知行動モデル」,特に「行動」の機能を分析する場合には「行動随伴性モデル」,クライエントの解決や変化,リソースの探索・同定・強化を目指す場合には「解決志向アプローチ(SFA)モデル」,クライエントの自我発達(病理)水準や精神力動的な理解が有用な場合には「精神力動モデル」が参照されるというアセスメントが実施され,次いで技法の選択が行われる。さらに,ここで使用される技法が適切なものであるならば,それが治療関係の構築,強化に貢献するとされる。
 このような議論に対して指定発言では,統合・折衷の説明はどうあれ,治療者が独自の「理論」を複数の理論を複合させて組み立てているのが実態であること,技法はクライエントの意見を容れて選択されるべきことなどが指摘され,治療者が他の学派から真剣に学び続けること,学んだことを創造的に柔軟に応用することの重要性が強調された。
 評者にとって本書は,多くの人々の長年にわたる議論が背景にあることが実感される本であり,学ぶところがとりわけ多いものであった。折衷的・統合的心理療法は心理療法の今後の発展と密に結びついていると考えられる。統合・折衷的心理療法を追求しようとする執筆者の熱意に敬意を表すると共に,この領域の発展を衷心より願う。