『認知行動療法・禁煙ワークブック−Re-Freshプログラム』

原田隆之著
B5判/120p/定価(2,000円+税)/2014年4月刊

評者 村井俊彦(医療法人栄仁会宇治おうばく病院)

 あなたは,タバコが依存という精神科の疾患であることをご存知でしたか?
 身体に悪いと気づいても,吸ってしまう……。それは「依存」という精神疾患(*1)が潜んでいるからです。これこそがタバコの正体です。ところが禁煙の取組は,内科,外科,産婦人科等,害に「気づける」科で進み,肝心要の精神科では遅れがちです。
 華々しい精神症状をタバコは示しません。「気づけない」まま生活に紛れ込んでいます。タバコに蝕まれている精神疾患の方が多いのもまた事実です。
 精神科での遅れが,依存の特徴である「気づけない:否認」が原因であれば,精神科医療従事者としては残念なことです。
 そんな中でようやく,精神疾患としてタバコと向きあえるアプローチが現れました。依存症治療への有効性が実証されているリラプス・プリベンション(以下RP*2)に基づくこのワークブック(WB)です。依存には「否認」とともに「離脱(反応)」「渇望」という壁が存在します。
 この3つの壁の登攀ルートを示し,さらにガイド役として共に壁を乗り越える同伴者の役割を本書は果たしてくれます。全行程は8週間です。
 1〜4週で日常に紛れ「気づけない」でいる喫煙を切り分けていきます。「気がつけば喫煙」を脱し,喫煙へと仕向ける「引き金」を探りあて,その対処を見出していきます。毎週,なるほどと思わせるコラムが用意され,RPが,依存からの脱却を通した新しいライフスタイルの提案であることに気づかされます。
 5〜8週は「離脱」「渇望」へのワークです。「離脱」への対処は思いのほか容易です。必要なら禁煙補助薬もあります。難所は「渇望」です。離脱反応は現れる期間が限られますが「渇望」に期限はありません。依存物質の連用で脳内に構造的な変化が生じているからです。依存物質の長期的曝露で脳内報酬系の側坐核細胞の樹状突起に「棘:spine」が生じることが確認されています(*3)。側坐核は外部からの「刺激」を「記憶」に照らして「行動」に変換させる報酬系の司令塔の役割を担っています。「棘」の出現は依存に結びつけられたさまざまな刺激へのアンテナの感度が高まることを意味します。喫煙の「引き金」となる「刺激」で「記憶」が蘇り「行動」が引き起こされます。これが「渇望」です。この結びつきは強力です。禁煙を長年(時に10年以上)維持できていても「つい一本」(ラプス:チョイ崩れ)のつもりが,この「棘」の働きで「喫煙の再開」(リラプス:大崩れ)となります。大崩れした時に感じる,無力感,罪責感はそのまま「棘」に学習され,禁煙を無意味と考え否認の機制を強めます。この回路を断ち切る薬物は未だ存在しません(*4)。治
療の有効性が実証されているのはRPのみです。ラプスをリラプスさせることなく自己効力感を賦活させ,脳内のタバコにまつわる記憶の書き換え,棘の感度を変えている可能性があります。これは本当に強力な精神療法といわねばなりません。
 全118頁,イラスト満載,活字も大きく読みやすい。が,求めるワークは8週と半端ではありません。このワークで「腑に落ち」「身になじむ」読者仕様のオーダーメイド仕様のRPの獲得が可能となります。是非,お読み頂き,お試し頂きたい一冊です。

注釈
*1 APA(2013)Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders. Fifth Edition.(高橋三郎・大野裕監訳(2014)DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院)
*2 G・A・マーラット,D・ドノバン編(原田隆之訳(2011)リラプス・プリベンション―依存症の新しい治療.日本評論社)
*3 Nestler EJ(2008)Review. Transcriptional mechanisms of addiction : role of Delta FosB.Philos Trans R Soc Lond B Biol Sci 12 ; 3245-3255.
*4 期待された薬物(rimonabant)は2008年で開発が止まっています。