『PTSDハンドブック-科学と実践』

M・J・フリードマン,T・M・キーン,P・A・レシック著/金 吉晴監訳
B5判/550p/定価(12,000円+税)/2014年5月刊

評者 小西聖子(武蔵野大学)

 待望の翻訳書である。編著者のフリードマン,キーン,レシックはいずれも長年にわたって米国で主導的な地位にあるPTSDの研究者である。序文にあるように,本書は,学生,院生,研究者,臨床家に向けての「トラウマの領域への洗練された入門」書であり,また,1980年にPTSDの概念がDSMに登場して以来の「すべての進歩を伝えるような記念碑」でもある。また「心理的トラウマの領域に対する主要な貢献をはっきりと」示す書でもある。
 原書初版は2007年に発行されたが,それ以来,私は折に触れてこの本を読んできた。明晰かつ実証的に書かれた本書は,PTSDの各領域についての到達点や問題点を知り,頭を整理し,考える材料を得るのに最適で,信頼に足るものであった。PTSDに関心を持つ大学院生たちにも読ませたいと思ってきたが,正直,英語の本なのが問題だった。論文読解よりも会話重視の英語教育の中で育ってきた若い人たちにとっては,原書を読むという課題を出しても,英文和訳だけで精いっぱいで,ぎっしり詰まった内容がなかなか頭の中に入っていかないようだからである。監訳者がこの本を訳していると聞き,楽しみにして待っていた。
 PTSD が日本でも扱われるようになって20年以上たつが,当初は,PTSDはショッキングな体験の精神的後遺症全般を指すものとみなされたり,あるいは逆に詐病であるかのごとく扱われたりする混乱した時期があった。さまざまな誤解も引き起こしつつ,ようやく一つの精神障害として認知されつつあるのが日本のPTSD の現状だと思う。それでも概念,診断,治療それぞれに大きな揺れがあり,安定した研究,臨床がどこでも行われている状況とは言えない。その中でPTSDとは何かということについて,組織的で圧倒的な情報が得られる本書の価値は高い。
 特に,最初の章は編著者3人によるPTSDの25年についての論説であり,PTSDを扱う人全員に一度は読んでもらいたい部分である。新しい研究論文はその検証もそこそこに,断片的でセンセーショナルなニュースとして流れたりするが,それとは対照的な全体像が示される。また,子どものトラウマについての疫学の章も同様である。何がわかっていて何がわかっていないのか全体像を知るために有用だ。生物学的な領域の進歩は著しいが,それについても,一定のイメージを描くことができる。個人的には「未踏の領域」に分類されている「PTSD と法」の章も―こういう法とのかかわりの深さがPTSDをさらに混沌とした領域に押しやっているのだが―この領域のよいまとめとなっており,興味深かった。本書はDSM-Wの時代に書かれているが,DSM-5になってもその価値は変わらない。今年になってからDSM-5に対応した原書の第二版が出版された。関心がある人には,これもお勧めである。
 出版された本の分厚さ,価格に腰が引ける読者もいるかもしれないが,それだけの価値はあることを保証したい。

原書 Friedman MJ, Keane TM, Resick PA : Handbook of PTSD : Science and practice