『PTSDハンドブック-科学と実践』

M・J・フリードマン,T・M・キーン,P・A・レシック著/金 吉晴監訳
B5判/550p/定価(12,000円+税)/2014年5月刊

評者 市井雅哉(兵庫教育大学)

 本書の原著“Handbook of PTSD:Science and Practice”は2011年に刊行され,2014年に邦訳『PTSDハンドブック―科学と実践』が金吉晴博士監訳のもと上梓された。各章の翻訳は,日本のトラウマ領域の最先端の若手,中堅,ベテランの専門家が担当している。
 本書はトラウマ領域の研究者や臨床家の必携書として座右に置く書になることと思う。心理学,疫学,神経生物学,ジェンダー,子ども,老人,文化,精神療法,薬物療法,レジリエンス,公衆衛生とさまざまな領域がカバーされ,最新の情報を提供しており,精読に精
読を重ねる価値がある。
 日本のPTSD研究の歴史は1995年に阪神淡路大震災が起こったことを契機に盛んになった。1996年に出版された“Traumatic Stress : The Effects of Overwhelming Experience on Mind, Body, and Society”の翻訳『トラウマティック・ストレス―PTSDおよびトラウマ反応の臨床と研究のすべて』が誠信書房から出版されたのは2001年であり,今日まで,多くの研究,臨床を牽引してきた。この頃は,日本におけるPTSD研究の黎明期とも言え,トラウマやPTSDへの関心が急速に高まり,児童虐待防止法,ストーカー規制法が2000年に,犯罪被害者等基本法が2004年に成立しており,その最中の2002年に,日本トラウマティック・ストレス学会(JSTSS)が設立されている。
そして2011 年には東日本大震災が起こったことで,それまでの成果が見直される時期へと突入している。JSTSSは今年2014年には第13回学術大会を開催し,1,264名の会員を擁する。
 まさに,本書は日本のPTSD 研究の次の時代を牽引するべきタイミングで出版されたと言える。惜しむらくは,本書の第2版が2014年6月に米国ではすでに出版されたことだろう。ざっと中味を見てみると,章立ては,初版が26章であるのに対し,第2版が36章と10章増え,DSM-5に触れた章もあって,この領域の日進月歩ぶりが表れている。そうは言っても,章によっては,さほど大きな改訂がないものもあるため,この初版の意義は過小評価されるべきではない。こうした最新の動きにも配慮して,本書でも「あとがきにかえて―DSM-5と本書の意義」で,PTSD診断の変更の意味づけに触れ,A基準での反応の部分の変更や解離症状の重要性が指摘されている。DSM-IVの発表から19年が経ち,DSM-IV-TRの発表からも14年が経過しており,この間の研究成果がDSM-5に活かされ,本書にも詳述されている。
 一つだけ懸念を述べておこう。“Traumatic Stress”の編者がvan der Kolk(アメリカ人),McFarlane(オーストラリア人),Weisaeth(ノルウェー人)であったのに比べると,本書は3名のアメリカ人が編者になっている。アメリカがPTSD研究分野の先駆者である
ことは疑いのないことであるが,DSMとICDが異なり,ISTSS(国際トラウマティック・ストレス学会)とWHOが異なるように,世界全体に目を向けたバランス感覚はより重要と言えるかもしれない。

原書 Friedman MJ, Keane TM, Resick PA : Handbook of PTSD : Science and practice