『治療的アセスメントの理論と実践−クライアントの靴を履いて』

S・E・フィン著/野田昌道,中村紀子訳
A5判/368p/定価(4,500円+税)/2014年5月刊

評者 佐藤 豊(防衛医科大学校精神科)

 わが国の心理アセスメントの未来に一石を投じる待望の翻訳である。本書を読み終えた時,今までの心理アセスメントに対する考え方が大きく変化するだろう。著者の「こころ」(heart)までも伝わる翻訳に尽力された,訳者の二人にも感謝したい。
 「治療的アセスメント(therapeutic assessment)」とは,診断や治療計画,治療効果の評価などの目的に用いられる伝統的(情報収集的)アセスメントモデルとは異なり,心理アセスメントをクライエントの援助に直接的に結びつけようとするアセスメントモデルである。さらに著者は彼らの実践に,Therapeutic Assessmentという固有名詞の名前をあて,体系化した一連のアプローチを用いた治療論を展開している。
 3部で構成された本書では,この治療的アセスメントについて,歴史と発展,臨床実践における課題,そして理論背景がわかりやすく論じられている。
 治療的アセスメントの全体像をつかむ第1部を読んだのちに,読者には第3部の第18章「心理アセスメントから学んだ深い思いやりと毅然とした態度」を読むことをお勧めしたい。心理アセスメントの治療的な力を実感した著者の若き日の感動がそこには描かれており,彼の人柄と原点となった体験が伝わってくる。このタイトルもすばらしい。クライアントに対する「深い思いやりと毅然とした態度」こそが,心理アセスメントの査定者に求められることであり,習得されていくべきことなのだから。
 第2部は興味のある章をどこから読みはじめても良いだろう。セラピーの途中で自分のクライアントにロールシャッハを実施した効果(第5章),「ADD」と診断された男性との治療的アセスメントが詳述された事例研究(第10章),カップルに対するコンセンサス・ロールシャッハの活用(第12章),治療的アセスメントの失敗例の考察(第13章)。どの章も,著者の繊細かつ鮮やかな介入場面に臨席するかのようで,読みながらページを繰る手が止まらない。MMPIとロールシャッハテストの結果を統合したアセスメント・フィードバックの方法を考察した第7章,アセスメント・コンサルテーションで生じやすい問題点についてまとめられた第9章は,特に私たちの日常臨床に役立つと思える。
 医師や他の臨床心理士から,彼らの担当するクライアントのアセスメントを求められた時,クライアントから向けられる査定者への理想化転移や依頼者からの預言者転移にどう対処するとよいのか。査定者の立場にとどまり,クライアントにも依頼者にも適切な対応を行い,既の治療関係を良い方向に変化させていくにはどうすればよいのか。単なるHow toではなく,治療に関わるすべての人々との関係を築き,専門家としての自分自身を高めていく工夫が述べられている第9章は,本書の白眉であろう。
 「アセスメントの仕事は,勇気のない人には向いていない。良いアセスメントを続けていくためには,自分の内なる影に直面し続けなければならない。そして,それまでその人に誰も言わなかったことを,勇気を振り絞って伝え無くてはならない」(p.344)。「私はパーソナリティ・アセスメントを愛している。個人的には,これほど興味深く,感動的で,乗り越えがいのある仕事は他にはないと思っている。読者の多くも同じように考えていると信じている」(p.51)。著者の言葉は心に響く。評者が日々の臨床実践を続けるのも,心理アセスメントの魅力を多くの人に伝えたいと思うのも著者と同じ理由である。
 本書を手に取り,著者ともに心理アセスメントの未来に一歩を踏み出してみようではないか。道しるべは,ここにある。

原書 Finn SE : In Our Clients’  Shoes : Theory and techniques of therapeutic assessment