『統合的短期型ソーシャルワーク−ISTTの理論と実践』

E・ゴールドシュタイン,M・ヌーナン著/福山和女,小原眞知子監訳
A5判/296p/定価(4,600円+税)/2014年6月刊

評者 北西憲二(森田療法研究所・北西クリニック)

 私はかつて精神科の病院でソーシャル・ワーカーの人たちと協調して仕事をし,大学の社会福祉学科で教員として働いていた。現場で働くソーシャル・ワーカーの方々が多様で広範囲な援助を実践しており,社会福祉の扱う領域の広さには感心もし,驚きもした。
 一方彼ら/彼女たちのアイデンティティはどこにあるだろうか,と疑問に持ったこともある。本書はそのような疑問に答えるソーシャルワークの理論(研究)と実践の統合の書である。
 本書は,1999年に米国のソーシャルワークの研究者によって書かれたものである。当時の米国の時代的状況は,監訳者の福山氏,小原氏があとがきで述べているように,2014年の日本の社会現象と類似しており,日本においても対人援助者の成果が求められるようになった。それには援助事例を通して,援助の意義を学問的に検証し,それに基づく高度で,質の高い援助展開が必要になる。
 現代日本の社会状況,人々の抱える問題の複雑で多様,かつ援助困難性などは,本書であげられている事例と多くの点で類似しており,興味深く,私自身の臨床実践にも参考になった。
 たとえば,思春期から家族の問題を抱え,離婚歴のあるアフリカ系アメリカ人女性のうつ病,薬物依存歴がありHIV陽性で家族から拒否されているホームレスのアフリカ系アメリカ人女性,性的虐待の成人被害者のグループワークなど,治療の困難例についての対人援助プロセスは興味深く,今日の日本の現状と重なる部分も多い。この時期に,本書が翻訳されたことはタイムリーであろう。
 本書は,第T部理論概念と実践原理,第U部特殊な問題と対象,からなっている。そこでは理論の説明と共に,該当する豊富な事例が挙げられており,研究(理論)と事例検討が車の両輪をなしている。理論編では,第1章,短期型援助の概観から始まる。そこでは,三つの基本的モデル,精神力動モデル,危機介入モデル,認知行動モデルが挙げられ,それらを統合,あるいは折衷しながら,援助者は被
援助者に適した理解と介入を行う。
 事例が困難に遭遇し,行き詰まっている時に,必要に応じて過去の発達上の問題として,人生の過渡期やトラウマとして,さらに不適切な認知や行動として理解しながら,援助に当たるのである。
 第2章,理論的視点と主要な特徴,ではISTT(統合的短期型援助)の10の特徴が述べられている。ソーシャルワークの専門性とは,分割化と焦点化,援助者―クライエント関係の特異性の活用,クライエントのストレングスと能力を活用すること,協働,連携,権利擁護などであろう。
 夫との別居,母親の死など対処困難を抱える女性のケースでは,援助者はクライエントの経済的問題の解決が最優先事項と把握し,そのための具体的な方法について援助した。この発想と援助の方法はソーシャルワークの独壇場であろう。
 ここで述べられている援助モデルは,心理的モデルに偏らず,生活実践モデルとして生活に即して,援助を展開しようとする。
 第3章から第7章までは,実際の援助の段階に沿って開始段階,展開段階,終結段階が述べられている。第U部,特殊な問題と対象では,第8章,危機指向型ISTT,第9章,情緒障害を持つクライエント,第10章,自ら援助を求める気のない,接近困難なクライエント,第11章,家族指向型ISTT,第12章,グループ指向型ISTT,など私たちが日々臨床で出会うような事例の介入について,ISTTの立場から述べてある。自分の経験から照らし合わせながら読むと,さらに理解が深まろう。
 本書はソーシャル・ワーカーの臨床力をアップし,その専門性を高めるために,書かれたものであるが,実践的で,包括的な介入方法を提示しており,社会福祉に携わる人たちのみならず,広くメンタルヘルスの専門家に勧めたい良書である。

原書 Goldstein E, Noonan M : Short-Term Treatment and Social Work Practice : An integrative perspective