『統合的短期型ソーシャルワーク−ISTTの理論と実践』

E・ゴールドシュタイン,M・ヌーナン著/福山和女,小原眞知子監訳
A5判/296p/定価(4,600円+税)/2014年6月刊

評者 高畠克子(元・東京女子大学)

Ⅰ はじめに
 この本は,第Ⅱ部「理論概念と実践原則」と第Ⅱ部「特殊な問題と対象」で構成され,統合的短期治療(ISTT)に関する大部(約300頁)の訳本である。ゴールドシュタインらが1999年に出版したこの著書は,1990年以前の精神力動モデル・危機介入モデル・認知行動モデルを基にして,ソーシャルワーク実践モデルを構築し,1990年代に著者らが行ったソーシャルワーク実践事例を提示しながら,ISTT理論をわかりやすく書きまとめたものである。

Ⅱ ISTT理論の特徴
 @ISTT理論は,多領域の専門家とクライエント(Cl.:病者・障害者・マイノリティの人びとなど)との協働(Collaboration)による語りを基にしたNarrativebased Approachからの理論である。
 本書が訳された2010 年代は,多くの研究分野で科学性・客観性,そしてEvidence-based Approach が求められるようになってきたが,本書のような地道な臨床実践に基づくナラティブ・データこそがEvidenceなのだと筆者は考える。変化や回復を数量化して証明することが最良とされる現代において,理論構築を確かにしたうえで,ナラティブ・アプローチを用いて臨床実践をまとめたこのソーシャルワークの研究書を,4年かけて世に出された訳者たちに敬意を表したいと思う。
 AISTT理論では,まず生物・心理・社会学的アセスメントを行い,そのうえで介入計画を立てる。
 著者らはソーシャルワークの理論化のために,Richmondの社会診断学(1917),Perlmanの問題解決ケースワークモデル(1957),Rapoportの危機介入論(1970)を重視しており,生物・心理・社会学的アセスメントに基づいて介入計画を立てている。このような厳密な取り組みは,アメリカの契約主義と医療保険制度の制約によるところが大きい。援助者はCl.と治療契約を結ぶことで,Cl.と保険会社の双方に大きな責任を負うことになる。なお,治療契約には,@問題の領域,A介入の目標,B問題に取り組む意味,C契約内容(期間・面接回数や長さ・料金・キャンセル規定など),D守秘義務など,が含まれる。
 BISTT理論は,ソーシャルワーカーの実践マニュアルである。
 本書では,ISTT理論を開始・展開・終結の3段階に分けて,事例を交えながら解説している。開始段階では,主訴や「今−ここ」での問題や感情に関わり,問題の分割化・目標と焦点の選定などを進める。展開段階では,介入技法(探求・明確化・合理的な話し合い・助言と指導・教育など)を駆使して,協働的・肯定的関係を構築したうえで問題解決していくが,変化へのネガティブな動きには,Cl.・援助者関係のマネジメント技法を用いる。終結段階では,成長の振り返りと未解決な問題を確認しながら,Cl.・援助者関係を終了させていく。8章以降は危機志向型ISTTを用いて,情緒障害をもつCl.(うつ病・パニック障害・統合失調症・パーソナリティ障害など),自ら援助を求める気のない接近困難なCl.などへのアプローチ,そして家族志向型ISTT・グループ志向型ISTTなどが述べられている。

Ⅲ ISTT 理論および実践に対する疑問
 本書を読み通して感じた疑問点を,2点以下に記しておく。
 @本書を読む限り,ソーシャルワーカー(SW)の仕事は多義にわたり,しかも高度な専門的スキルが求められるが,SWの専門教育およびスーパービジョン体制がどう保証されているのかが知りたいと思った。
 A本書に書かれているSW像は,医療保険制度という制限されたなかで,いかに短期間で効果的に個人臨床を進められるかにかかっている。評者がイメージしていたSW像は,個人臨床だけでなく,ニーズのある現場に出向き(footworkして),Cl.はじめ多職種の専門家とnetworkを組み,協働して人びとが棲みやすい社会環境の改善にどう関わるのかだった。ISTTを行うSWの環境へのさらなる働きかけについて知りたいと思った。

原書 Goldstein E, Noonan M : Short-Term Treatment and Social Work Practice : An integrative perspective