『いじめサインの見抜き方』

加納寛子著
A5判/192p/定価(2,400円+税)/2014年7月刊

評者 冨永良喜(兵庫教育大学)

 本書はネットいじめやサイバー犯罪,情報リテラシー教育を専門とする研究者による「リアルいじめ・ネットいじめのわかりやすい専門書」である。
 「現代的いじめの特徴」,「いじめのサインの見抜き方」,「早期発見のための対策」の3部から構成されている。現代的いじめの特徴では,いじめを助長するソーシャルメディアとして,ネットいじめ加害のハードルの低さと傷つきの高さを指摘する。また,ネットいじめの被害の割合はアメリカ52%,日本7%と,日本が低いのはスマホの普及率が低いからであり,ここ数年の普及率の増加をみると,ネットいじめ対策は日本の大きな課題となると警告する。2013年に制定されたいじめ防止対策推進法のいじめの定義に「当該児童生徒が在籍する学校」とあり,ネットいじめは同じ学校の生徒と限らないのでこの法律では不十分であるという。リアルいじめの特徴が,閉鎖性・固定された人間関係・集団主義であるのに対し,ネットいじめは,その3つに加え「リゾーム(地下茎)的増殖性→炎上」を特徴とし,ネットいじめは逃げ場がないと論じる。
 さまざまな統計資料から多くの事例まで,広く情報収集した上で論を組み立てている。すなわち,日本でのLINEやネットいじめにかかわる自殺や事件についてのみでなく,世界で起こったネットいじめによる事案やいじめ防止の法律まで幅広くかつ詳細に具体例を紹介しているため説得力がある。
 そしてソーシャルメディアが新たな“いじめツール”となり,いじめそのものもエンターテインメント化しており,深刻な事態に陥らないよう解決を図っていくためには,早期発見と早期対処が極めて重要だと展開している。そしてなにより,おとな社会のいじめに切り込む必要性を説く。付録の「いじめサインをみつけるためのフローチャートとワークシート」は教員や保護者にとっても参考になる。
 早期発見と早期対処の根底に流れる著者の発想は,わが国が緊急に整備しなければいけない教育のあり方の提言でもある。「危険なら遠ざけるという発想は誤り」,「ソーシャルメディアの使い方を守るべきルールを身につけさせるべく教えることが必要」,「いじめをしたいという気持ちはどこから派生しているのか,押さえつけられて苦しんでいるストレスはなんなのかを突き止め,それを解きほぐすところからはじめる指導こそがいじめの芽を摘む糸口となる」,「義務教育段階で,正規のカリキュラムの中で,LINEやメール等で書き込む内容の相手への伝わり方,波及力などについて,段階を追って系統的に教えていくことが,最も効果のある対策といえるであろう」と教育の重要性を指摘している。著者は,平成22年度科学技術分野の文部科学大臣表彰・科学技術賞(理解増進部門)を受賞しており,ネット社会のいじめ対策に必読の書といえる。