『私をギュッと抱きしめて−愛を取り戻す七つの会話』

スー・ジョンソン著/白根伊登恵訳/岩壁 茂監修
四六判/272p/定価(3,200円+税)/2014年8月刊

評者 丸山由香子(東京大学)

 顔も見たくないと思うほど人を嫌い続けることは案外難しい。それほどまでに感情を掻き立てる人との関係を手放すのはさらに難しく,労力を要する。
 さりとて,こじれにこじれてしまった関係をほどく糸口を見つけることもまた難しい。それが一度は添い遂げようと信頼を寄せたパートナーならなおさらであろう。本書はエモーション・フォーカスト・カップルセラピー(EFT-C)の知見に基づき,パートナーとの関係に苦悩するカップルに,その苦しみの仕組みと具体的な修復方法についてヒントを提示する書である。
 著者であるスー・ジョンソンはエモーション・フォーカスト・セラピー(EFT)を発展させたグリーンバーグ氏のもと,カップルに対する実践および研究を重ねる中で,愛着理論を用いたEFT-Cを確立させたという。著者は「夫婦の問題は愛着や絆に関わっており,安心感を与えてくれる相手が欲しいという脳内に刻まれた欲求にかかわるもの」であるとし,EFT-Cでは「夫婦が互いに心を開き,波長を合わせ,相手の働きかけに応じる瞬間を大切にしながら,心の絆を作り,強化していく」。本書は一般読者に向けたその簡略版であり,「悪魔の対話に気づく」「むき出しの箇所を見つける」「不安定な瞬間に立ち戻る」「私をギュッと抱きしめて」「傷つけられたことを許す」「身体接触の絆」「愛を持続させる」と名付けられた7 つの会話のパターンによってパートナーとの関係改善を試みる構成となっている。各ステップにはエクササイズのコーナーが設けられ,読者は自らの感情を丁寧に感じ取り,それをパートナーと共有するよう導かれる。随所に事例が挿入されており,反目し合っているカップルが徐々に自らの,そしてパートナーの感情に気づき,それを分かち合いながら絆を強めてゆく様が描写される。感情に目を向けるための言葉かけのヒントが豊富で,カップルカウンセリングのプロセスを読みながらに体験することができることから,監修者あとがきにもあるように,本書は一般読者のみならず,カップルの問題を扱う臨床家の教科書ともなりうるであろう。
 著者は「子ども時代の環境のせいで情緒的困難が残っていても,良い夫婦関係を築ければ互いに良い親になるのを助ける」と良好な夫婦関係が子育てにも良い影響を与えると述べ,抱え続けてきた苦悩も自分の選んだパートナーとの関係の中で緩和させられる可能性を示唆する。本書はカップルカウンセリングに携わる臨床家だけでなく,クライエントの関係系を視野に入れた援助を実践する臨床家にも役立つスキルが散りばめられている。変化への大きな一歩を踏み出そうとするカップルだけでなく,多くの臨床家に手に取ってほしい一冊である。

原書 Johnson S : Hold Me Tight : Seven Conversations for a Lifetime of Love.