一〇年前に雑誌連載をもとに上梓した本書の旧版がまだ生き残っているから、すこし書き加えて新版を作ってはどうかと、金剛出版の立石正信氏からお誘いをいただいた。自分の書いた本が一〇年生き残ってきたことはうれしいことである。改版することで今の若い読者に読んでもらえるならなおありがたいと思う。そう思って立石氏のお誘いを受けることにして、「治療者自身の心の響きを知る」という一章をつけ加え、さらに最近雑誌に書いた短いエッセイのいくつかをコラムとして入れた。
 本書で述べている精神療法はほかならぬその治療者とその患者との出会いのなかで行われるもので、近年の操作的診断に基づいたマニュアルによる治療とは対極にある。昨今の流行ではないが、私は、人と人とが出会うなかで心の深みを探る精神療法がこれからも生き延びることを願っている。

平成二六年三月二〇日  桜の開花を待ちつつ
成田善弘