『最新 大災害メンタルヘルスケアガイド 不測の衝撃−危機介入に備えて知っておくべきこと』

F J.スタッダード Jr.,C L.カッツ,J P.メリーノ,精神医学振興協会編
小谷英文監訳/東日本大震災支援合同チーム訳
A5判/272p/定価(3,000円+税)/2014年9月刊

評者 藤 信子(立命館大学大学院応用人間科学研究科)

 この本を手にした時,20年前の阪神・淡路大震災の時の小さなパンフレットを思い出した。National Institute of Mental Health が作成した大災害における対人援助従事者のためのもので,出かける前の『準備』から数冊に分かれていたように記憶している。準備の冊子についての印象が強いのは,支援に出かける時に,残していく家族や職場の理解を得るという項目に触れて,そのようなことに配慮する必要があることを初めて知り,その後心に止めてきたからだろう。「最新 大災害メンタルヘルスケアガイド 不測の衝撃―危機介入に備えて知っておくべきこと」は,9.11のテロ,ハリケーン・カトリーナ,巨大竜巻などの国内の災害や,東南アジアでの津波などの体験の後,米国の精神医学振興協会が,プライマリケア医のためにまとめたものであるが,筆者はこの本を,自治体の防災担当,医療・福祉の専門職団体の研修担当の方たちに読んでほしいと思った。
 東日本大震災後,日本集団精神療法学会の相互支援委員として,震災の「相互支援のグループ」を各地で実施してきた。今回の大災害では,自治体間の協定や専門職団体としての支援によって,日本の各地から多くの支援者が派遣されていた。グループを続けながら,時々これは前もって情報を与えられると,支援者の痛みも少なくなったのではないか,と思うこともあった。例えば,支援に出かける前に職場の人がどのように受け止めているかを知っておくこと,職場ではやはりいつもいる人がいなくなるという不自由さは生じるだろう。職場としての派遣だから当たり前で,気を使う必要は無いと言われるかもしれない。しかし,支援の現場では,日常の職場とは時間の感覚が違うことが起きる。帰って来た時は,スピード感などの違いで気持のズレが生じ,疎外感を感じることで,辛かったことを話せなくなってしまうことがあるだろう。また精神医療の専門家でも被災地では,過覚醒になった体験などを聞くと,第3章の「セルフケア」に「自分自身の情緒と身体反応にも注意を払うことが重要である」とあるのを読むと,このようなことを前もって知っていることの重要性を感じた。派遣する団体の担当者に支援者に起こることが理解されることは重要なことではないだろうか。
 この本に書かれているのは,被災地における最初の標準的な対処法である。第1章の「参与」から「アセスメント」「死別と災害」「心理的介入」「協働ケア」など24章にわたって述べられているが,各章の始めに,ピーターという内科医の体験のエピソードが描かれることで,その章のポイントをイメージしやすくなっている。そして災害における最初の対応は「安心させること」「情報を与えること」などであり,必要なのは診断やaccountabilityではなく,被災者の個人の話を聞き,それについて説明するコミュニケーションの必要性であることが,全編を通して書かれている。コミュニケーションのための直感と臨床的センスを養うことを再確認するために,支援に行かない人にも一読を勧める。支援で大変な力と時間を使いながら,翻訳をされたことについて,「否認」を超えるための,小谷英文先生を始めとする訳者の方々の熱意を重く感じた。

原書 Stoddard Jr. FJ, Katz CL & Merlino JP :Hidden Impact: What You Need To Know For The Next Disaster : A Practical Mental Health Guide For Clinicians.