『バイオサイコソーシャルアプローチ―生物・心理・社会的医療とは何か?』

渡辺俊之,小森康永著
四六判/250p/定価(2,800円+税)/2014年7月刊

評者 上別府圭子(東京大学大学院医学系研究科家族看護学分野)

 書評依頼にも意味を感じる,昨夏,総会中のアクシデントのために,皆様に大迷惑をおかけした2週間ほど後に本書の書評依頼を受け取った評者は,思わず「はい,ちゃんと働きます!」と言ってお引き受けした。著者のお二人は,日本家族研究・家族療法学会の第10代会長と編集委員長なのである。
 「バイオサイコソーシャル(BPS)」という用語には,なんとなく懐かしい響きがある。評者が臨床のかけだしのころ,上司に連れられて出入りしていた日本心身医学会でよく聞いたような気もするし思い違いかもしれない。ここで打ち明ければ,知っているような気がしているだけで,「全人的医療」との区別もついておらず,これがシステム理論を基盤としていることすら意識していなかった。たぶん,多くの医療者の平均的姿なのだろう。
 本書を開き,すぐに惹きつけられた。システム理論,エンゲルもさることながら,文章がうまいのである。心室細動で倒れた林雅也の「物語」から,読者はBPSモデルの世界に誘われる。「分離された生物心理社会モデル」は誤りで,それらが互いに関連し合うという認識が出発点であることを理解する。その後,本書の前半を理論編が占めているが,理論の苦手な評者も家庭教師のようなガイドに導かれて読み進めるうちに,臨床例が増えてきて,技法編,応用編に突入する。BPSモデルに基づいた実践は,エンゲルが精神科主任教授を務めたニューヨーク州ロチェスター大学のスーザン・マクダニエルらを中心にBPS(S)アプローチ(最後のSはスビリチュアル),メディカル・ファミリーセラピーとして展開されている。地域のプライマリーケア医,小児科クリニック,リハビリ施設,メンタルヘルス施設などで実施しやすいとマクダニエルは述べ,日本でも同様の可能性があるが,日本でメディカル・ファミリーセラピーが広まるためには,家族理解のための卒前・卒後教育や家族療法の普及が必要だと著者は訴える。患者の抱えた病気や障がいと家族が上手に向き合っていくことを援助するのがメディカル・ファミリーセラピーであり,病気をめぐる患者自身と家族の体験を,明確にしていく。家族と医療スタッフのコミュニケーションを促進し,ケアのためのネットワーク形成を意識的に行う。ジェノグラムを積極的に活用し,「死」のテーマも扱う。BPSSインタビューの具体的質問例の紹介もあり,評者は家族看護学の教育や実践に,さっそく取り入れようと大興奮で読み進めた。メディカル・ナラティヴ・プラクティス,パラレル・チャート,ディグニティセラピーも興味深い。
 ところでつい先日,スーザン・マクダニエル氏が,アメリカ心理学会(APA)のプレジデントに選出されたとの嬉しいニュースが届いた。APAといえば54の専門領域にわたる13万人の会員を擁し,北米の60州をカバーする大組織である。家族療法にますます期待が集まる時代になったのではないか。精神科医・精神保健福祉士・臨床心理士はもちろん,身体科の医師や看護師にも読んでほしい一冊である。