『子育て支援ガイドブック―「逆境を乗り越える」子育て技術』

橋本和明編
A5判/280p/定価(3,400円+税)/2014年8月刊

評者 大嶋正浩(メンタルクリニック・ダダ)

 子育て支援における編者(橋本氏)の思い入れと,それぞれの分担執筆者の丁寧な子育て支援の合作である。氏の文章には,現実場面での有効な対応がとられていないことへの危機感があり,共感して読ませて頂いた。
 10年,15年前の一部の専門家が警鐘を鳴らしていた時期と変わり,どの人も発達障害,児童虐待,子育ての混乱について何らかの切迫した問題を感じている状況となってきた。しかし,有効な対策を講じられないまま,年ごとに子どもたちの状況,親の大変さは増している。橋本氏は冒頭から「『子供は天からの授かりもの』と思えなくなってくる」「いぜんから共有されていた子育ての常識が今や通用しなくなっている」「親がもはや子供を可愛いとは思えず,情の通じ合いを感じないという関係性の希薄さに直面することになる。もはや…子育ては親にとって逆境以外の何物でもなくなる」と述べている。
 そういう認識から,情愛の存在が自明ではなく,「親にとっての逆境の中の子育てにおいて,周囲の支援を受け入れ,逆境にいる自分をしっかり見つめ,その中で頑張っている自分を発見し子育ての力が湧いてくることが子育てにおけるレジリエンス」と彼は主張している。“技術”つまり子育てをコーチングすることに支援者は目を傾けるべきで,その結果情の通じ合いも起こりうるという。
 確かに子育てが苦手な親に,「愛情をもって」と迫っても,うつ病の人に頑張れというのと同様であろう。できないことを強いられる苦痛は共通している。橋本氏が言うように一緒に歩んでくれるほうが受け入れられるのだろう。
 橋本氏は行き詰った状況を打破する考え方を示している。専門家が子どもの側に立つ場合に迷い込みやすい隘路を示し,その脱出法を述べている。一方共著者達は,丁寧な子ども理解や状況の説明と関わり方の勘所を示している。短い文章ながら納得できるものが多かった。決して“技術”という言葉のイメージのようなものではない。分野も虐待,非行,いじめ,里親,施設処遇等多岐にわたっている。
 縦の軸(こころの発達やその子の歴史)と横の軸(生活・環境)の両者をイメージできることが,支援には重要だと思われる。そういうものがない,あるいは求めずに安易に専門家だと思う人が多いのが現状かもしれない。教育現場を代表とするように,1年あるいは2,3年の間の関わりの立場も多い。
 そのハンディを補うには,自分のフィールド以外の人と深くかかわり,考え方を吸収するということが不可欠となる。そういう意味で,いろいろな職種の人が執筆しており,本書はいい道案内となろう。
 また,橋本氏の家裁調査官としての文章に触れると,氏の臨床の変遷を想像させる温かな内容であった。その彼が,親が自分自身を大事に思えるような周囲の人の支えが,この混乱した事態におけるキーであると思ったことは,さまざまな臨床家の心にも通じるところがあると思われる。