『臨床現場のフォーカシング−変化の本質』

アン・ワイザー・コーネル著/大澤美枝子,木田満里代,久羽 康,日笠摩子訳
A5判/340p/定価(4,200円+税)/2014年8月刊

評者 園田雅代(創価大学大学院)

 本書を読んでの感動や高揚感と相まって,美しい桜吹雪のような本書の表紙を見ていたら花見気分になったのか,屋台の景気良い呼びこみをしたくなった。「寄ってらっしゃい,見てらっしゃい。この本はすごくお得です。買わなきゃ損,読まなきゃ大損ですよ〜」と。
 著者のアン・ワイザー・コーネルは,ベストセラー「やさしいフォーカシング」などで著名なフォーカシングの第一人者。数多くの著書やワークショップなどを通じて,フォーカシングを誰に対しても明快に,かつ奥深く伝えられる才能の持ち主だ。わかりやすく,それでいて本質の妙味を余すところなく教授できる彼女の能力が,年々,さらに進化・深化していることを本書は如実に示している。著者自身,「中学生が読めないような文章は書かない」と言っているとのこと(本書 大澤美枝子氏の「訳者あとがき」より),まさにその通りだ。たとえば「フェルトセンス」のことを著者は「ある生の状況全体について感じられる意味感覚を新鮮に形成すること」と定義し,フォーカシングとは「人が,オープンな許容的な態度でフェルトセンスに注意を向けるプロセス」と述べている。本当に読みやすさ・わかりやすさに関してはピカイチの本と言える(それは無論,訳者たちの尽力あればこそ。ひとつの言葉をどう訳すか,知恵を振り絞ったことなどが「訳者あとがき」に書かれているが,と同時に,訳者たちの根底にあるフォーカシングへの熱い思い,センスの良さ,そう,フェルトセンスのみずみずしさといったものも印象深く感じた)。
 本書の魅力は,読みやすい・わかりやすいとはいえ,決して「やわ」な本ではないところにもある。たとえば,フォーカシングを通じて変化が生じるのはなぜか,その変化の本質とは何かなどを取り上げている第1 章の論考の骨太いこと。著者いわく「意気揚々と哲学的レベルに舞い上がった」というこの章は知的好奇心を大いに賦活してくれる。また,後半の章での「知性化・自己批判などが根強い」クライエントや「トラウマ・嗜癖・抑うつをかかえている」人へのフォーカシングの進め方の例示や,その要点・留意点など,惜しげもなく自分の知恵や勘所を開示してくれる著者の潔さには脱帽だ。さらに,「フォーカシングと他の治療様式がどう統合可能か」が主題の章では,「フォーカシングありき」ではなく「常に最優先されるべきは,クライエントその人と,その人とセラピストの今ここでの関係」だとする著者の基本姿勢の明示など,(当然のことかもしれないが)襟を正される思いがする。そして最終章「セラピストのためのフォーカシング」で著者は,セラピストとしての「自分がしっかりとそこにいたいし,自分自身にきちんと触れていたいから」「フォーカシングをして,自分の在り方にいつでも触れていられるように」している,とさりげなく書いているが,これはある意味,読者たちへの強烈な問いかけになっているようにも感じた。
 では,最後に呼び込みをもう一度。「いかがです,お客さん,読まなきゃ大損ですよ〜」。

原著 Cornell AW : Focusing in Clinical Practice : The essence of change