『子どものトラウマと悲嘆の治療−トラウマ・フォーカスト認知行動療法マニュアル』

J・A・コーエン,A・P・マナリノ,E・デブリンジャー著/白川美也子,菱川 愛,冨永良喜監訳
A5判/296p/定価(3,400円+税)/2014年9月刊

評者 石丸径一郎(東京大学)

 本書はTreating Trauma and Traumatic Grief in Children and Adolescents(Guilford, 2006)の全訳である。25年ほどの歴史があるトラウマ・フォーカスト認知行動療法(TF-CBT)という,トラウマの影響を受けた子どもとその養育者のためのセラピーに関する総合的なマニュアルである。以前からマニュアルや解説はあったが,本書は1996年,2001年,2003年に発表された3つの著述を統合したものだそうで,待望の決定版というべきものである。
 第1部ではTF-CBTの全体像について解説しており,第2部ではトラウマに焦点を当てた10個の構成要素について,第3部では悲嘆に焦点を当てた4個の構成要素について解説するという章立てになっている。ここからわかるようにTF-CBTは構成要素主義を取っている。大人向けの最も有名なトラウマに関するセラピーである持続的エクスポージャー法はパッケージマニュアルになっていて,どのセッションでは何分かけて何を行うということが,かなり具体的に決められているのとは対照的である。TFCBTのマニュアルでは,セッションの総回数(「例えば12〜18回」という控え目な記述は登場したが),1回あたりの時間,ペースについては明快には触れられていない。このセラピー構造の柔軟さは,子どもが対象であるからということも1つにはあるのかもしれない。「治療者の判断,スキル,創造性の重要さ」という節があり解説してあるくらいなので,均質なセラピーとして効果研究するのは難しそうな感じもしたが,一方いろいろな臨床場面に導入していきやすいメリットはあるだろう。対象となる子どもの年齢,適応,禁忌や,治療者になるための具体的な資格要件も明快には書かれていなかったが,トレーニングの機会は充実しているようである。
 1つもったいないと思うのは,TF-CBTという名称だと初めて聞いた人には子ども向けだということすら伝わらないことである。TF-CBTの核をなす基本理念が6 つあるそうだが,それが1つも名称に現れておらず,セラピーの特徴を表す名前になっていないのは不思議に思った。
 普段大人を相手にすることが多い立場からすると,アセスメントをする前に「語るスキルの構築を行う」とか,認知行動療法でいう「思考」については「頭のなかでお話していること」と言うと理解されやすいなど,子どものセラピーのために具体的な役立つ示唆が多い。取り上げられている構成要素の半数ほどは,幅広く使える対人援助職としての基本技能も含まれていて,非常に実践的に簡潔にまとめられているので,トラウマが専門でなくても非常に勉強になる。各章に「こんなときどうしたらいいの?」というQ&Aがついており,理解を深めることが容易である。違和感を持たせないとても読みやすい訳文であり,この領域に大きな影響を与える1冊になると感じた。

原書 Cohen JA, Mannarino AP, Deblinger E :Treating Trauma and Traumatic Grief in Children and Adolescents.