『マインドフルネス入門講義』

大谷 彰著
A5判/246p/定価(3,400円+税)/2014年10月刊

評者 北西憲二(森田療法研究所/北西クリニック)

 マインドフルネスは,米国でもてはやされているようである。それが輸入されて,日本でも一種のブームとなっている。私の理解では,欧米での認知行動療法があまりにも操作的過ぎることへの反省,あるいはそこでの限界を感じて,今までの視点に東洋の知恵を導入して新しい精神療法として提唱されたものであろう。それが第3 世代の行動療法と総称される,マインドフルネスストレス軽減法,アクセプタンス・アンド・コミットメント・セラピー,マインドフルネス認知療法,メタ認知療法などである。
 ここでのキーワードはマインドフルネスである。しかし私たちは,米国で注目されるようになった背景やそれがどのような役割を期待されてこれらのセラピーに組み込まれているのか,などを十分理解しているわけではないように思われる。
 このような時に,30 余年にわたって米国でサイコロジストとして研鑽を積み,現在も活躍中の大谷氏がマインドフルネス入門書を公刊した意味は大いにあるだろう。
 出版によせて,大谷氏は次の3 点を心がけたと述べている。第1 に,マインドフルネスの源流である仏教瞑想について考察することである。それが第1部「マインドフルネスの背景を学ぶ」である。ここで私は改めてマインドフルネスがミャンマー,タイ,スリランカなどに東南アジアの国々で実践されているテーラワーダ仏教(南方上座仏教)に端を発していることを知ることができた。テーラワーダ仏教は実践を重んじ,それに由来する瞑想法がマインドフルネスの基礎をなす。
 第2 に,マインドフルネスに関するニューロサイエンスと行動科学における今までの研究成果と実践に活用できるテクニックが,第2 部「マインドフルネスの科学を学ぶ」,第3 部「マインドフルネスの臨床を学ぶ」で具体的で平易に紹介されている。
 マインドフルネスとは,大谷氏の定義では「『今ここ』の体験に気づき(awareness),それをありのままに受け入れる態度および方法」となる。タイの高僧,アーチャン・チャー師は,「単にマインドフルネスから生じる精神統一状態に満足するのではなく,それを活かして深い自己理解を図り,とらわれのない『今ここ』の生活を送る」ことが真のマインドフルネスであるとする。
 そして大谷氏が指摘するように,マインドフルネスと臨床マインドフルネスとは異なった面があることを見逃してはならないだろう。臨床マインドフルネスでは,認知行動療法に付け加える形で,技法としてマインドフルネスの一面,情動調整を用いている。
 本書でも森田療法のことが取り上げられているが,森田療法ではあるがまま(マインドフルネスにある面は類似している)が治療目標となるが,第3 世代の行動療法では,情動調整としてマインドフルネスを利用する。
 真のマインドフルネスには,思うようにならない世界と自己への執着を脱し,それを操作することをあきらめるという側面が存在する。その思想の流れに沿ったものが森田療法であるが,第3 世代の行動療法はより操作的で,このような側面はそぎ落とされている。
 そして第3 に,本書には膨大な英文の論文,書籍が引用されており,大谷氏がそれらに必ず目を通し,必要に応じて翻訳されていることである。これらから私たちは,米国でのマインドフルネスの最新の動向について知ることができる。
 本書の紹介を踏まえて,日本の精神療法の学派がさまざまな議論を交わし,日本独自のマインドフルネス精神療法の発展に結びつくことが望まれよう。
 本書では,その成り立ちからわかりやすいとはいえないマインドフルネスの概念を整理し,私たちが理解しやすいように述べられている。幅広く精神療法,心理療法を実践し,あるいはメンタルヘルスの専門家に読むことをお勧めしたい。そして自らの臨床経験と照らし合わせながら,著者と本を通して対話する楽しみを味わってもらいたいと思う。