『短期力動療法入門』

マリオン・ソロモン他著/妙木浩之,飯島典子監訳
A5判/268p/定価(3,800円+税)/2014年11月刊

評者 岩壁 茂(お茶の水女子大学)

 精神分析領域の翻訳は,非常に進んでいる。新たな注目作が発表されるとそれほど待つことはなく,日本語版が刊行されている。最先端の理論的発展を敏感に察知して,それを比較的短期間で日本の読者に紹介する学術的な基盤とエネルギーは賞賛に値する。そのような中でなぜか,あまり翻訳者の関心が向かなかったのか,どちらかというと置き去りにされてきたのが短期力動療法の文献である。精神分析の複雑で抽象的なメタ心理学理論から離れて,よりシンプルな治療機序を明確に打ち出し,変容のプロセスを促進する介入をより具体化した短期力動療法は,理論的にも実証的研究においてもめざましい発展をとげてきた。ただし,その発展は,精神分析という枠の中では,異端的な存在でもあり,むしろ,カウンセリング心理学および臨床心理学の中の一アプローチとして高く評価されてきた。本書は,短期力動療法の理論,実践,研究の発展が凝縮され,短期力動療法の発展に寄与してきた主要な研究者・臨床家の貢献を概観できる一冊である。
 本書が紹介するのは,短期力動療法の中でも主にダーバンルーやマランらによって広められた短期力動療法であり,透明性と科学性という点において大きな潜在力をもったアプローチである。彼らは,面接のビデオを録画し,その内容を細かく分析することによって変容プロセスの鍵を見いだそうとした。そのような分析にもとづいて彼らが,知的理解よりもむしろ深い感情の体験を促進することに治療的焦点をずらしたことも注目に値する。短期力動療法のセミナーでは現在でも面接場面がビデオで上映される。面接のビデオに際立っているのは,精神分析の治療原則に基づきながらも,積極的に変容を喚起するセラピストの姿勢であり,深い感情体験を中心として劇的に変容が進む,極めて「体験的」なプロセスである。
 本書に寄稿している著者のほとんどは,ダーバンルーやマランらに教えを受けた短期力動療法の第2世代に属する臨床家・理論家であり,現在短期力動療法界の第一線で活躍している。彼らは,理論と実践の中核にある概念や治療原則を極めて明解にまとめており,それぞれの章には短期力動療法の面接のダイナミックさがそのまま伝わってくる逐語とその解説が掲載されている。また,EMDR と短期力動療法の比較,脱感作の考えを取り入れた統合的力動療法,短期力動療法に基づいたカップルセラピー,アタッチメント理論を取り入れた力動療法の概念化など短期力動療法の広がりがとてもよく伝わってくる。
 現在,エビデンスと短期的アプローチに注目が集まる中,面接のプロセスの細かな分析によって治療的機序を明確化した短期力動療法は,有力な治療的選択肢であることが本書から明確である。また,短期力動療法が目指しているのは表層的な症状の消失や統制ではなく,人格的変容であることを考えると短期療法としての力動療法の意義は計りしれない。本書が精神分析アプローチの臨床家だけでなく,他の短期アプローチを実践する臨床家にも広く読まれ,短期的アプローチの可能性について議論が進むことを願っている。

原著:Solomon M, Neborsky RJ, McCullough L,Alpert M, Shapiro F & Malan D:Short-Term Therapy for Long-Term Change