「いくら言っても本人は飲んでいるだけで動こうとしないんです。もうどうしていいのかわかりません。」―こういった家族からの相談は少なくありません。依存症治療はこういう家族からの相談を受けることから始まることが多いです。その時に「本人に治療の意志がなければどうにもなりません」としか家族に言えないのでは専門医療でもなんでもありません。治療や回復に今は背を向けている本人に対して家族が効果的な対応を見出していける援助が必要とされています。どう対応すれば薬物やアルコールの問題を持つ本人の治療や回復につながるのかについて,家族からの切実な願いにこたえるためのプログラムがこのCRAFTです。徹底して家族の立場に立った家族援助の方法です。
 おそらくどの家族にもアルコール・薬物問題に巻き込まれてきたさまざまな苦労と努力の歴史があるはずです。特にまだ本人が治療につながっていない場合,その家族はうまくいかなかった数々の体験があり,そのことが先の希望を奪い,絶望的な気持ちにすら陥っているかもしれません。必要な援助とは,これまでの家族の苦労をねぎらい認め,そして本人に対する具体的で有効な手立てをともに考え,見出していくことです。
 これまでの家族援助は「イネーブリングを止める」「本人がシラフの時に話をする」「本人が問題に直面するまで待つ」という面が強く,これらの考え自体は間違いではないにせよ,結果的に家族にさらなる沈黙と我慢を強いてきました。家族が本人に言いたいことがあっても,本人を怒らせてしまうより黙っている方がまし,となりがちでした。家族が自分の気持ちを本人に伝えることは本人にとっても家族自身にとっても非常に大切なことです。これまで家族はその方法を知らなかっただけでした。CRAFTには新しいコミュニケーションの仕方を始めとして,包括的で総合的なプログラムが用意されています。CRAFTはそれらの方法を学び,練習する実践的なプログラムです。
 CRAFTの創始者であるロバート・メイヤーズとブレンダ・ウォルフによって2004年に出版された『Get Your Loved One Sober: Alternatives to Nagging,Pleading and reatening』(原題邦訳「あなたの大切な人にもう飲ませないために―小言や懇願,脅しの代わりに」,日本語版『CRAFT 依存症者家族のための対応ハンドブック』松本俊彦・吉田精次監訳,渋谷繭子訳,金剛出版)をテキストにして,私たちはCRAFTプログラムを家族に提供してきました。そして試行錯誤しながら,日本の医療現場に合うようにアレンジを加えてきたものが今回このワークブックになりました。援助職の方々には是非このワークブックを臨床場面で使っていただきたいと思います。本書を家族と一緒に読み,質問事項を家族に考えてもらい,今日家に帰ってから具体的にどんな行動がとれるかを一緒に考え,見つけ,練習できるようにしてあります。家族の方がこのワークブックで独学することも可能です。本文を読み,質問に答え,今の自分にできることを見つけてください。グループで学習することも有効です。
 CRAFTはこれまでの家族援助の限界を突破する極めて強力なプログラムです。アルコール・薬物問題で困っている家族がこの問題に対処できるようになり,楽になることを心から願います。そして,この問題で苦しんでいる本人が一人でも回復の糸口をつかめることを願います。