CRAFTを初めて知ったのは2005年の日本アルコール関連問題学会で聞いた猪野亜朗先生のポスター発表でした。「治療に抵抗している患者への対応」はアルコール依存症治療に携わっている者なら誰しもが苦労している課題です。その解決法を提示していることが強く心に残りました。その後,『Getyour Loved One Sober』が出版されていることを知り,原書を取り寄せ読み始めました。私の非力な英語力では十分には訳せませんでしたが,翻訳家の渋谷繭子さんとの出会いと彼女の労苦をいとわない協力を得て一気に日本語に翻訳することができました(この翻訳が松本俊彦先生の監訳で『CRAFT依存症者家族のための対応ハンドブック』として2013年に出版されました)。この翻訳をもとにこれまでやってきた家族援助を組み立てなおしました。病院でのCRAFTプログラムを2013年2月から開始し,家族に提供できるようになりました。同年8月にはCRAFT創始者であるメイヤーズ先生が来日され,徳島で3日間のCRAFTワークショップを開催しました。直接メイヤーズ先生とから直接話を伺うことが出来た貴重な機会になり,CRAFTの理解が深まりました。
 ある学会でCRAFTとはどんなプログラムなのですか?その本質を一言で言うと?と聞かれたとき,口をついてふと出てきた言葉が「CRAFTは愛です」でした。CRAFTプログラムをやってきての素直な実感でした。アルコール・薬物問題は本人の心からも家族の心からも愛を奪っていきます。自分のことを大切に思えない,相手のことを大事に思えない状態に陥っていきます。愛が瀕死の状態になっていきます。その愛を蘇生するきっかけがこのプログラムのどこかしこに用意されています。コミュニケーションの仕方を変えることは,単にテクニックの問題ではありません。相手をなじったり責めたりする言い方を変えることで,相手の心に起きることももちろん変わります。それ以上に言い方を変えた家族自身の心に温かい気持ちが蘇ってきます。それを家族や本人が実感できるからこのプログラムは効果を生むのです。やる気がわくのです。
 CRAFTはアルコール薬物問題だけでなく,ギャンブル問題やひきこもり,摂食障害の問題を持つ家族にも有効です。CRAFTを貫く考え方は人と人の関係性や人間性の本質に焦点が当たっているので,CRAFTを学ぶことはその人の生活全般にも影響を与えます。私自身がそうでしたが,治療者や援助者の考え方や仕事に対しても大きな良い影響を与えてくれます。
 CRAFTが全国に普及し,家族援助のスタンダードになるように願ってやみません