『認知行動療法 実践レッスン―エキスパートに学ぶ12の極意』

神村栄一編
A5判/192p/定価(3,200円+税)/2014年11月刊

評者 藤澤大介(慶應義塾大学医学部精神・神経科)

 本書のなかの言葉によれば,本書は「初級レベルの出口,中級レベルの入口」の人向けの本のようです。
 中級の定義を「平均的なクライエントをそつなく診られるセラピスト」と考えるならば,第一に必要な要件は,治療の幅の広がりです。初級のセラピストは,抑うつや不安障害など,何か一つ二つの疾患を中心に,認知行動療法の基本的な‘型’を身につけているのだと思いますが,実地で出会う多くのクライエントは複数の病態を併存しており,単一のうつ病や不安障害といった例は多くありません。特に医療現場で心理療法を依頼されるケースは,薬物療法だけでは太刀打ちできないような複雑な背景の患者さんである確率が高いでしょう。患者さんが持つすべての併存症の治療プロトコルに習熟するには時間がかかりますが,現場は待ってくれませんから,概略だけでも知っておく必要があります。
 中級セラピストのもうひとつの要件は,実践的なノウハウを身につけていることです。例えば学校場面では,子ども本人の介入のほか,学校環境や親への対応など,配慮すべきことはたくさんあります。そんなとき,いわゆる教科書的な知識はあまり役に立ちません。経験を積んだ先輩方の“ちょっとしたコツ”が,どんな理論よりも助けになったりします。しかし,そういった先輩方の技はそう簡単に真似できません。「経験を積めばできるようになるよ」なんて言われても困ります。困っているのは経験の少ない今なのですから。そんなときには,しっかりとした治療理論に基づいた読み解きが助けになります。
 中級セラピストを育てるよい指導者とは,「基礎的な理論を体系的に教えてくれる→その理論を背骨に持ちながら現場での具体的な小スキルを教えてくれる→時々その先生独自の秘伝のワザをチラ見させてくれる」といった組み合わせを絶妙なバランスで教えてくれる人なのではないでしょうか。
 本書は,そんな素敵な先生が黄色く小さくまとまったような本です。たとえば本書の第Ⅰ部には,うつ病の認知行動療法の手順がきわめて簡潔に(認知行動療法の1 つのスキルが1 段落程度に!)記述されています。理論を体系的におさらいしたりするにはうってつけです。第Ⅱ部の不安障害の各章をざっと読めば,これまで不安障害や強迫性障害の治療に馴染みが薄かったセラピストも,それらへのアプローチの概要が理解できるでしょう。あるいは,「理屈はともかく,明日面接を控えた自傷行為のある不登校のケースをなんとかして!」という人には,第Ⅲ部の嗜癖・アクティングアウト系や第Ⅳ部の教育相談・療養相談の章を読めば,教育や養育の現場でよくある問題についての対処を知ることができるでしょう。
 編者の神村栄一先生が緒言で書かれておられるように,本書はまさに「認知行動療法の初歩的基礎的学習と,各領域の実践をマニュアルで学ぶ過程を学ぶ(間の)ステップ」となる本なのだと思います。