『やさしいみんなのペアレント・トレーニング入門―ACTの育児支援ガイド』

リサ・W・コインほか著/谷 晋二訳
A5判/330p/定価(3,400円+税)/2014年11月刊

評者 三田村仰(関西福祉科学大学)

 かつて,ある保護者が私に対しこう言った。「子どもたちは私の言うことなんて聞きません。毎日家のなかが戦場なんです!
 『お母さんが子どもたちのトレーナーになってあげてください』なんて言葉は聞きたくありませんよ。そんな言葉は他所で聞き飽きました。とにかくもう,わたしは母であるだけで精一杯なんです!!」。
 子育ては,しばしば骨の折れる営みである。なかには育てるのが難しいタイプの子どもがいることも事実であろう。しかし,「悪戦苦闘しているのはあなただけではない」(本書,p.20)。親ならだれもが悩んでいるし,それは間違ったことでもおかしなことでもないのだ。
 本書( 原題“The Joy of Parenting : An Acceptance and Commitment Therapy Guide to Effective Parenting in the Early Years”)は,単に問題を解決すること(願わくは,お母さんに有能なトレーナーになってもらうこと)に焦点を当てるのではなく,保護者がいかに有意義な時間を子どもと共に過ごすか,どのように価値ある子育てに取り組んでいけるかに焦点を当てている。本書で紹介される子育てのためのアイディアは,現在「認知行動療法の文脈的アプローチ」として注目を集める「アクセプタンス&コミットメントセラピー(以下,ACTアクト)」に基づいている。本書ではACT の頭文字にちなんだ「Acceptance:受け入れる」「Choose:選択する」「Take action:行動する」の3 つのキャッチフレーズをもとに,ACT の技法や発想がわかりやすく紹介されている。全体を通したテーマは,子どもとの関わりのなかで保護者のなかに生じる怒りや心配,罪悪感といったさまざまな体験を振り払おうとせずに受け止め(A:受け入れる),どういった子どもとの関わり方を大切にしたいのかを選び取り(C:選択する),その関わりを実行していく(T:
行動する)というものである。
 ACT は,認知行動療法のなかでも,さまざまなメタファーや体験的エクササイズを持つことで知られるが,本書でもオリジナルのメタファーやエクササイズが数多く紹介されていて,楽しくも実用的な書籍となっている。本書に散りばめられたフレーズ(「子どもを気にかけますか? それともあなたの心を?」「いつか覚えていますか?」など)は,しばしば読む者をドキッとさせると同時に,保護者として自分が何処に向かっていきたいのかをビビッドに意識化させてくれるだろう。
 本書では,その構成と翻訳がともに読みやすく工夫されており,家族をもつという原著者たちも含め,本書に携わった人たちの持つ,保護者や子どもたちに向けたやさしさを感じる。子育て中のクライエントにはもちろんだが,一般の親御さん方,本誌を購読されている子育て中の先生方にもお勧めしたい。ひとりの人を育てるということの意味をご自身のなかで再確認できるのではないだろうか。