『やさしいみんなのペアレント・トレーニング入門―ACTの育児支援ガイド』

リサ・W・コインほか著/谷 晋二訳
A5判/330p/定価(3,400円+税)/2014年11月刊

評者 山崎晃資(弘徳会愛光病院)

 児童虐待,いじめ,自殺,待機児童問題,青少年による凶悪事件などが毎日のように報道されている。平成27 年4 月から実施された「子ども・子育て支援新制度」では,子育て中の親子(妊婦も含む)へのさまざまな支援が考えられており,さまざまな職種の人々によるきめ細やかな支援がはじめられようとしている。厚生労働省は,平成27 年度予算において「発達障害児・発達障害者の支援施策の推進」を重点項目として挙げており,ペアレント・メンターの養成と,家族の対応力向上を支援するペアレント・トレーニングの全国的な普及を図ろうとしている。
 このような状況の中で,育児に悩む親を対象として平易に,具体的に書かれた本書が訳出されたことは絶好のタイミングである。著者らによる読者へのメッセージには,「この本のユニークな強みは,伝統的な行動マネジメントの技法だけではなく,新しい文脈からの知識を融合させたことにある。(中略)アクセプタンスとマインドフルネスの技法を組み合わせることで,親がより思慮深く,効果的に行動マネジメントの技法を適用する方法を学ぶことができるという点に焦点を当てていることである」と述べられている。本書の副題である「ACT」は,アクセプタンス&コミットメント・セラピー(Acceptannce and Commitment Therapy)の略語で,「自分にとって人生で最も重要なものを効率よく追い求めていくために,思いやりをもって自分の経験を認めて受け入れることに重点を置く治療的アプローチ」である。
 本書は次の10 章からなっている。@子育てについてのACT の考え方,A幼少期の子育て……それは大変な仕事!,B子育ての価値―一番大事なこと,C目的はコントロール?―感情への対処vs 行動への対処,Dマインドフルネス―あなたの子どもに感謝しよう,E楽なことよりうまくいくこと―あなたの子どもの味方になる,F関係を築き,適切な行動を促す, G 発散行動(Acting-Out Behavior) にACT を使う,H不安になっている子どもを支える,I全体をまとめる―最後のツール。
 それぞれの章は非常に具体的なケースがふんだんに盛り込まれており,平易な説明がなされている。さらにポイントごとに「Exercise!」が用意されていて,読者が自分の理解度と工夫を試すことができるように設定されている。著者らは「まとめ」で,「私たちの本における中心的な原則は,あなたの親としての体験は,子どもの育て方における重要な要素であるということです。私たちは,体験の回避は,繊細かつ効果的に有効な子育て方法を学ぶことや使うことを妨げてしまうことを示してきました。対照的に,マインドフルな気づきとアクセプタンスが,子どもの発達と適切な行動を支え,望ましくない行動の発展を妨げる子育てを促進してくれると期待しています」と述べている。
 興味あることは,本書の中で「あるがままに」という表現がたびたび出てくることである。「マインド」という言葉を「こころを配る」「気にかける」という意味で使っており,防衛的でも,評価的でもなく,目的をもって注意を向けるスキルであるマインドフルネスという考え方のルーツは東洋の哲学にあるという。子育てをしながら悩み,喜びを感じる日々の暮らし方を述べる時に,「ジャータカ物語」(仏陀の説話)から「川岸の2 人の僧侶」の寓話を引用しているのも興味深い。
 ACT が我が国にも導入され,関連図書や翻訳書が出版されており,慢性的疼痛,不安障害,うつ病,薬物依存症,PTSD など適用範囲が拡大されはじめているという。
 評者が危惧することは,これまでさまざまな技法が海外から導入されてきたが,ややもすると形式的にその技法をなぞることが多いことである。人のこころは筋書き通りにいかないものであり,思うようにはいかないものであることを,常に念頭に置いていただきたい。
 前述したように,ペアレント・メンターやペアレント・トレーニングが注目されているが,基本にある理念や考え方を深く理解し,「子育ての旅」を順調に進み続けることを期待してやまない。
 子育てに悩むご両親や,それを支援するさまざまな職種の方々にお勧めしたい一冊である。

原著 Coyne LW & Murrell AR : The Joy of Parenting : An acceptance & commitment therapy guide to effective parenting in the early years