『森田療法を学ぶ−最新技法と治療の進め方』

北西憲二編著
A5判/208p/定価(3,200円+税)/2014年11月刊

評者 増野 肇(ルーテル学院大学)

 本書は,『精神療法』誌に連載されたものをまとめたものである。その狙いは,治療の現状が,入院森田療法から外来森田療法へと変化していくなかで,前者で培われた知恵を後者の中で生かしていくために企画されたものである。その背景には,著者らが皆川邦直らの精神分析精神療法グループとの共同研究会や本誌にも協力している中村敬らの森田療法家と立ち上げた森田療法セミナーでのスーパービジョンの経験などがあり,そこでの経験が生かされている。その意味で,森田療法をこれから始める人にも分かりやすく,しかも実践していくうえで役立つ内容になっている。
 森田療法を支える基本的な枠組みとして,著者は,内なる自然と自己意識との関係を三角形の図を用いて説明している。健康な人は基本に内なる自然がありその上に身体,自己意識がある。ところがとらわれている人は逆三角形になっていて基本の内なる自然が一番小さく,自己意識が増大していることから苦しみが生じているとする。Gibson JJ の造語であるアフォーダンスという言葉を使用し,環境を素直に取り入れて流動的に動いている状態(アフォーダンス)が基本にあるべきなのに,増大した自己意識のためにそれが不安定になっているのだと説明する。したがって,この増大した自己意識を削り,基礎にあるべき自然を膨らますことが森田療法で行われることだと言う。
 本書が優れているのは,この理論を,症例を通して具体的に説明しているところにある。最初に森田正馬が行った赤面恐怖の根岸症例が紹介され,赤面恐怖の訴えには徹底して触れずに,傷つきやすい彼の自己愛を傷つけることなく健康な自己愛へと育てていった見事な治療であるとしている。そして,それに続いて,森田療法を前期,中期,後期と分けて,最初の症状の受け入れから始まり,自己の生き方へと変換させ,最後にあるがままの生き方に達するまでのポイントを,著者の症例を紹介しながら具体的に説明している。最後には,森田療法セミナーを立ち上げた中村敬ら数人の人たちによるパニック障害,うつ病,強迫性障害の症例が紹介されている。また,著者の啓発した家族への森田療法的なかかわり方も紹介されている。
 初期では,不問療法ではなく,外来では症状を聞いてそこにある肥大した自己意識に気づかせることが大事だとか,日記の活用の大切さ,また,症状の訴えから自己の在り方へと関心が変化していくなかで一貫して「生の欲望」に注目してそれを明確化していくことがポイントであるとして具体的なかかわりが紹介されている。症状から自己の在り方に目を向けさせる中期では,治療者にとっても焦らないで待つことが重要だとしているが,大切なことである。家族への介入は,本人が来なくて家族だけが来る事例も多いことや,本人以上に家族の自己意識の肥大が問題であることなどを考えると活用すべきことである。
 外来で精神療法を試みている人たちに,森田療法を知って実践に生かしてほしいと願うものとして,待望の書であり,精読を勧めたい。