『ロールシャッハ・アセスメント システム―実施,コーディング,解釈の手引き』

G・J・メイヤー,D・J・ビグリオン,J・L・ミウラ,R・E・エラード,P・エルドバーグ著/高橋依子監訳/高橋真理子訳
B5判/570p/定価(15,000円+税)/2014年12月刊

評者 小川俊樹(放送大学)

 本書は,奥付によると2014年12月20日の出版となっているが,同年の7月にトルコのイスタンブール大学を会場に国際ロールシャッハ学会第21回大会が開催された。たまたま同じホテルに本書の執筆者の一人であるグレゴリー・メイヤーが泊まっており,本書の日本語訳が「タカハシ先生」の手で進められていることを教えてくれた。すでに買い求めていた原著は2011年に出版された534頁にも上る大部の本であり,翻訳本が出るのはもうしばらく時間がかかるのではないかと推量していたが,同年秋に開催された日本ロールシャッハ学会ではすでに書籍コーナーに展示されていた。これだけの大部の翻訳を短期間でと驚いたが,本書は英語学を専門とする訳者と,ロールシャッハ法の第一人者によるコラボレーションの成果であると知って納得がいった。本書を日本語で読めることを願っていた者としては,たいへんありがたい。というのも,本書はロールシャッハ法の臨床家にはぜひとも読んでもらいたいと願っているからである。
 ロールシャッハ行動査定体系(Rorschach Performance Assessment System)という本システムは,エクスナーの開発した包括システム(Comprehensive System)を改善するために組織化されたロールシャッハ研究会議のメンバーが主となって考案されたために,包括システムの改良版と見なすことができる。しかし,評者としてはそのようには捉えず,真の包括システムと見なすことのできるシステムの作成と考えてよいのではないかと思う。評者は,個人的にはエクスナー法を包括的システムと呼んでいた。というのも,エクスナー法は基本的にはベック法にそのシステムの基盤を置いているからである。たとえば,本システムから削除されたエクスナー法での組織化活動(Z)やその値などは,1961年に発表されたベック法のそのままであった。むしろ本システムは,エクスナーの「実証主義」を引き継いでの,新しいシステムと見ることができるのではないか。投影法でしばしば批判される評定者間信頼性を高めるために,コードの簡潔性を重視して,反応頻度の低い濃淡反応(T,V,Y)はすべて形態性を問わずに同一にスコアする。これは,無生物運動反応(m)と同じで,下位分類をなくしている。また,ベック法のラムダ(L)の代わりに,クロッパー法のF%を採用するなど,包括システムのコードで採用されなかった変数は,実に30以上に上るが,別表にまとめられており,わかりやすい。大きな変更の中でも,本システムのもっとも大きな特徴は,反応段階での教示ではないだろうか。投影法の本質は,被検者の自由性にあるといってよいだろう。しかしそれがために,信頼性や妥当性が損なわれてくるのも事実である。本システムでは,反応数を最適化するために,あらかじめ反応を2つないし3つ産出するように教示する。反応数を設定してしまう実施法は論議を呼ぶところであるが,身体像境界スコアを開発したフィッシャーらも採用しており,反応過程を過度に推測せず,しかも一定の反応数を確保するには確かに一つの実施法である。
 ベックやクロッパー,ラパポートらを第1世代,エクスナーやワイナー,ラーナーらを第2世代とすると,5名の著者らはこれからのロールシャッハ学界を背負っていく,いわば第3世代の研究者たちである。本システムに新しく採用されたボーンシュタインの口唇依存的言語やウリストの自律性尺度などは,理論的基盤を力動論に置くものであり,実証性を核に幅広い視点からの研究が進められており,今後が大いに期待できる。

原書 Meyer GJ et al : Rorschach Performance Assessment System : Administration, Coding,Interpretation, and Technical Manual