三人の訳者の立場や実践の場はさまざまで,私はカウンセラーとして大学の学生相談室で働いています。相談室は,学業のこと,心理的なこと,対人関係のこと,将来のこと,その他学生生活上のあらゆることについて話し合う場として多くの学生に利用されています。学生と話し合う他に,学生のことで保護者や関係する教職員と協力して環境調整を行うことや,学生向けのプログラムや教職員向けの研修を行うこともあります。
 大学コミュニティの中で仕事をしていると,ウンガーの言う「若者は少ない手持ちの札の中から最善を尽くしてサバイブしようとしているのだ」という理解が若者にとても大きな違いをもたらす事態に直面します。実際のところ私たちは,若者がトラブルを起こしたり,医学的診断を受けていたり,あるいは単に理解を超えているというだけで「問題あり」というラベルを貼りつけてしまいがちです。それは大人から見てよりよく生きることを放棄しているという意味かもしれませんし,望ましくない行動をやめられない,やめる気がない,あるいは大人の助言を受け入れないという意味かもしれません。いずれにしても,指導や援助までもがそのような文脈でなされるなら,若者から「問題あり」のラベルが剥がれることはあるのでしょうか。若者のさまざまなリジリアンスの表現をどう受け止めるか,どう若者と対話するか,若者にとって資源となるようなコミュニティ風土をどう育てていくか,そんなことを私たちはもっと考えていかなければなりません。
 大学生ともなると自分の意志で相談室を訪れる学生が多いわけですが,大抵は(来談にいたるまでに)「話してよかった」とその若者が思えるような関わりをしてくれた人がいるものです。本書の「若者に機会を提供する」,「代わりを見つける」といった戦略にまで関わるのはカウンセラーや担任,生徒指導担当教員かもしれません。しかし日頃声をかけるだけの大人が若者をよく見ていてつながりを築いていることもまた多いものです。本書は,日常的に,授業や課外活動で,あるいは指導や援助として関わった(今関わっている)若者のことを思い浮かべさせてくれ,実践的なヒントとなり,私たちの仕事を豊かにしてくれるでしょう。
 今回は,いつもご一緒させていただいている小森先生と,大学院で同期だった松嶋くんの三人で訳出できたことが私にはとてもうれしいことでした。金剛出版の高島さんには何時もながら丁寧に原稿を見ていただきました。感謝申し上げます。

奥野 光