『リジリアンスを育てよう―危機にある若者たちとの対話を進める6つの戦略』

マイケル・ウンガー著/松嶋秀明,奥野光,小森康永訳
A5判/208p/定価(2,800円+税)/2015年1月刊

評者 平野真理(東京家政大学人文学部)

 近年,日本国内において教育・ビジネス・経済といった幅広い分野でリジリアンス(レジリエンスと表記されることが多い)概念が大きく注目を集めており,いかにしてリジリアンスを高めるかに関する議論が方々で繰り広げられている。リジリアンスは非常に多様で定義の難しい概念であることが共有されつつある一方で,リジリアンスを高めようとする議論の中で前提とされている「リジリアンスの高い人」のイメージは,おおむね似たものであるように思う。それは,子どもであれば“勉強でつまずいても考え続ける”“叱られてもそれをバネに努力する”子ども,企業人であれば“つらいことがあっても前向きに仕事をする”“失敗を次の成功につなげる”社員というように,組織にとって適応的な状態にあるタフな人間である。いかにも,それはリジリアンスの高い状態であると言えよう。しかしながらリジリアンスは本来,組織や社会にとって適応的な状態のみを指すのではないということを,本書は冒頭からはっきりと示している。
 本書には,いわゆる非行青年と言われる,危険な行為や薬物乱用などを行う若者たちが登場する。その中でまず著者は,彼らを「自分の持っている資源(強み)を最大限に使って,最善を尽くして人生をサバイバルしている存在」であると認識している。リジリアンスとは,社会の適応優良児である状態ではなく,その人が生き抜く力を発揮できている状態である。したがって非行青年といわれる彼らもまた,リジリアントな存在であると言える。もちろんそのサバイバル手段が,周囲や自分自身を傷つけるという点で問題であるため,何か他の手段に置き換える手助けをする必要性を述べており,その方法については,3タイプの若者に対する6つの援助戦略として,具体的なポイントが紹介されている。そこでも著者は,若者たちに対して,彼らの人生をかけたサバイバルを否定するようなことはしない。彼らの生き抜く力を称え,好奇心を持ち,刺激を受け,尊敬する。そして彼らのパワフルな生き方が,彼ら自身の癒しであったことを共有しながら,今の破滅的な手段よりも魅力的な適応的手段を,提示し続ける。押し付けるのではなく,彼らが自分で選ぶときまで,提示し続けるのが大人の役目であるという。
 「リジリアンスを高める」という教育・支援的な営みにおいては,その人が気づいていない(適応的な)強みや,知らないスキルを教える,といったことが行われやすい。それは実際,多くの人に役に立つものであると思われる。しかし同時に,「子どもはいつだって最善を尽くしている」と書かれているように,今日まで生き延びてきた人は,皆その人なりのリジリアンスで―社会から見れば適応的でないものでも―やってきたのだという事実を,何よりまず尊重することが大切であろう。そこから先に,新しいリジリアンスを選ぶかどうかは,本人のペースで丁寧に進められるべきものであるように思う。

原書 Ungar M : Strengths-Based Counseling with At-Risk Youth