『家族相互作用−ドン・D・ジャクソン臨床選集』

D・D・ジャクソン著/W・A・レイ編/小森康永,山田勝訳
A5判/230p/定価(5,400円+税)/2015年4月刊

評者 児島達美(甲南大学文学部)

 いったい,何から書き始めたらよいのか…。本書通読後,評者の目はしばらく中空をさまよった…。そうだったのか,そんなことがあったのか…。評者にとって,ドン・D・ジャクソンは,三十数年前に家族療法に出会って以来,二重拘束理論を世に問うたベイトソン・グループの一員として,また,MRI(メンタル・リサーチ・インスティチュート)の創始者として馴染みではあった。しかし,半世紀以上も前に,“家族相互作用”モデルの構築を通じて,心理療法界の再編ともいうべき事態を巻き起こした彼の功績がこれほどのものであったとは…。ゆえに,ノックダウンをくらって,ようやく立ちあがった評者であった。
 さて,本書は,Ray WA(Ed)Don D Jackson :Selected essays at the dawn of an era. Zeig,Tucker & Theisen, Inc, 2005およびRay WA(ed)Don D Jackson : Interactional Theory in the Practice of Therapy, Selected papers vol II. Zeig,Tucker & Theisen,Inc,2009の2冊に集録された計41本の論文の中から,8本(前冊から3本,後冊から5本)が選ばれ訳出されたものである。そのうち,ジャクソンの単著が4本,MRIの同僚ウィークランドとの共著が3本,残る1本が集団療法の創始者であるヤロームとの共著となっており,その大半が“家族相互作用”の観点から統合失調症の治療に焦点をあてた綿密な事例研究である。さらに,編者のレイによる2本の序文と,今は亡きヘイリー,ワツラウィックおよびスルツキーそれぞれによる一文もまた興味深く,かつ,深い洞察へと導いてくれる。これらだけでも,本書の訳本としての価値は相当なものなのだが,実は,本書は,埋もれていた家族療法“古典”を訳出したものという域を超えて,ドン・D・ジャクソンという稀有なる存在と家族療法をめぐる時空を超えた壮大な心理療法アーカイブスの様相すら呈しているのである。というのは,石川元氏の「ドン・D・ジャクソンの光と影―序にか
えて」と題する本訳書の序文と,筆頭訳者の小森康永氏による「パロ・アルトの家族療法家,ドン・D・ジャクソン」と題する解説の,いずれも通例では考えられないほどの頁数を割いた内容の豊富さに圧倒されるからである。紙数の限りもあり,とてもその仔細にまで触れることはできないが,この両氏をして,ここまで書かせるというのもまた,あらためてドン・D・ジャクソンの偉大さによるものと感嘆するばかりである。
 かつて,ドン・D・ジャクソンが挑んだ個人主義は,今日,さらに強固になるばかりである。これを機に,もう一度,彼の魂を呼び起こす必要がありそうだ。評者にできることといえば,若手の心理療法家やその卵たちに徹底して本書を読ませることだ。
 最後に,本書訳出の労をとられた小森康永・山田勝の両氏と,出版にあたりとてつもない冒険をされた(?)金剛出版には心からの労いと感謝を申し上げる。

原書:Don D Jackson : Selected Essays at the Dawn of an Era/Don D Jackson : Interactional