本書は,主に精神疾患を理解したり治療したりするために役立つ,“性格類型”について書かれたものである。筆者の考える性格類型とは,ヒステリー型性格,強迫型性格,回避型性格,統合失調型素因,パニック型性格,境界型性格の6つである。統合失調型のみ素因としたのは,心理的な特徴よりも神経生理的な特性の方がより優っていると思ったからで,基本的には“性格”としてもかまわないと考えている。
 後にも述べるが,これらの性格類型は,ICD-10やDSM-W-TRに掲げられている精神疾患に一対一で対応するものではなく,いくつかの精神疾患にまたがって存在をする。たとえば,ヒステリー型性格をもつ人たちの精神疾患には,身体表現性障害,解離性障害,軽症うつ病,気分変調症,パニック障害,広場恐怖,不登校などがある。逆に言えば,パニック障害と診断される人たちの中には,異なる性格類型の人たちがいる。疾患と一対一で対応しておらず,従来の“病前性格”というものとは,異なった発想から生まれてきたものである。つまりは,“まずは性格類型ありき”であり,後に精神疾患があるという考え方に基づいている。
 精神疾患の治療において,仮に疾患の診断ができたとしても,それで治療がなかなかうまくいくとは限らないことが少なくない。たとえば,“うつ病”と診断されたとしても,抗うつ剤が功を奏しないばかりか,困った副作用が現われたりする患者や,休養をさせることが病気の改善に一向につながらないような患者の一群がいる。そのような経験をされた精神科医は少なくないのではないかと思う。しかし,筆者の性格類型を用い,患者の性格類型を特定することができれば,その患者に対する薬物療法や精神療法のやり方が自ずと明らかになってくる。ヒステリー型性格の人たちの主要な薬物は,スルピリドなどの少量の抗精神病薬が有効であり,精神療法的には,気を遣いすぎないとか,のんびりとした生活を心掛けるとか,十分な睡眠をとるといった助言が役に立つ。さらに,本書での性格類型の特徴は,専門用語を用いずに平易な言葉で述べられているため,そのまま患者に伝えても,患者が理解できる。それが治療的である。
 また,この性格類型は,精神疾患をもたない人たちにも広く存在しているものと考えている。その意味では,この性格類型は,精神医学のみならず,心理学の領域でも,大いに利用することが可能なものであると考える。つまりは,その人の性格類型がわかれば,その人の考えや行動のパターンといったものが見えてくる訳で,その人を心理学的に理解することはより容易となるはずである。心理的カウンセリングや家族相談やコンサルテーションなどの,心理臨床の領域で幅広く利用可能なものであると考える。
 分担執筆ではなく,単独で本を出版するというのは,筆者にとって初めての経験であった。どのように書き進めていいのか五里霧中の執筆であり,本を書き上げるまでには,さまざまな苦労があった。その本の企画から構成,また,校正の段階に至るまでの約1年にわたり,金剛出版・出版部の弓手正樹氏には,たびたび貴重なご助言やご指導,励ましを頂いた。あらためて,ここに,心より感謝の意を述べたい。