『性格と精神疾患−性格類型による見立てと治療』

志村宗生著
A5判/176p/定価(3,600円+税)/2015年5月刊

評者 原田誠一(原田メンタルクリニック・東京認知行動療法研究所)

 本書は,各種精神疾患にみられる性格を6種類に分けて,その性格類型を基に病態〜治療を論じるという独創的な野心作である。臨床現場での自らの観察〜省察に依り著者が独自に抽出した類型は,ヒステリー型性格,強迫型性格,回避型性格,統合失調型素因,パニック型性格,境界型性格の6タイプ。
 著者は近年主流となっている実証的な手法,たとえば「質問紙や評価尺度による得点を用いた解析」「客観性の高い記録法を用いた分析」は採らず,もっぱら臨床家としての直観〜思索に基づく議論を展開しており,クレッチマー以来のオーソドックスな臨床研究の伝統を思い起こさせる。
 それでは著者は如何にして,この分野で古き皮袋に新しい酒を盛ったか。評者の判断では,著者が記載している6類型の中で最も高い独創性が認められ,臨床現場での出現頻度が高く(「臨床場面でもっとも多くみられる人たち」本書18頁),有用性も大きいように感じられる「ヒステリー型性格」を基に見ていくことにしよう。
 まずは,今回抽出された性格類型が,ある精神疾患と一対一の対応関係にあるのではない点。たとえば,「ヒステリー型性格の人たちによくみられる疾患」(26頁)として挙げられているのは,解離性障害,身体表現性障害,気分障害の中の軽症うつ病や気分変調症,心的外傷後ストレス障害,パニック障害など,実に11の診断名に及んでいる。
 次の特徴は,性格類型の同定がそのまま「治療=薬物療法〜精神療法の基本方針」と直結して,具体的に述べられている点。以上の特性は,クレッチマー以来の臨床研究と性格を異にする面目新たなところであり,本書の独自性を雄弁に主張している。
 加えて,@性格類型の記述が極めて具体的で容易に理解できるようになっているため,本書の記載内容がそのまま心理教育の材料になりうる,A「性格の型を特定するための面接のコツ」が,具体的に述べられている(本書8章),BCloningerの性格理論との比較・検討を通して興味深い考察がなされているところ(9章)も,本書の優れた特色である。
 更に特筆すべき破天荒な特徴が,著者と性格類型の関係。ヒステリー型性格に関して,自ら「……筆者自身の性格がこの性格だからである。患者の性格を理解する時,自らの性格を分析することが大いに役立ったのである」(18頁)と開陳している。こうした大胆で率直な自己開示を行った上での性格論は,今まで例をみなかった。
 評者の判断では,著者は巧みに「古き皮袋に新しい酒を盛る」試みに成功した。「性格と精神疾患の関係」という従来から論じられてきた重要な問題に再度照明を当てて,斬新で刺激的なディスカッションを繰り広げている。特に,生物学的研究〜操作的診断〜エビデンス重視の傾向が優勢な昨今の我が業界における本書の意義は大きい。
 次に,評者が感じた問題点〜課題について述べさせていただく。ここでは著者自ら,本書の課題として記している2点,「性格を特定できていない疾患が存在する(双極性障害,抜毛症,自己臭症など)」「実証的なデータがない」以外の3事項を挙げてみましょう。
 まずは,性格の形成に深く関与する遺伝素因以外のさまざまな環境〜発達要因への言及が乏しいこと。言わずもがなであるが,性格の形成には生物学的に規定された遺伝素因の他に,養育環境,生活史上の体験,外傷体験,精神障害を発症した経緯の影響など,多様な環境〜発達要因が関与している。しかるに本書ではこれらの点に関する記述が極わずかしかみられず,この点が本書の説得力や臨床上の有用性を弱めている印象がある。著者が下坂幸三先生の薫陶を得ておられることをふまえると,評者にはこうした本書の傾向が不思議にも感じられました。
 二番目は,従来の性格類型,特に我が国で提唱された類型との異同〜重なりに関する考察がやや不十分なところである。たとえば,本書で提唱された「ヒステリー型性格」と安永浩が記載した「中心気質」の比較。評者の判断では,この両者にはかなり本質的な共通点〜重なりがみられ,2類型の比較〜検討は興味深いテーマになる。ちなみに安永も,中心気質の中の亜型の一つとして「ヒステリー型人格」をあげて論じています。
 最後は,本書の内容と認知行動療法CBTの関係。評者が気づいた範囲では,本書でCBTに関する記載がみられるのは強迫型性格においてのみであり,「(強迫型性格者の)このこだわりは,認知の歪みとも考えられるので,認知を修正するための,認知療法がこれらの人たちに適応となる可能性がある」(63頁)と述べられている。
 しかるに私見では,実は本書の各性格において述べられている「特徴」は,臨床の場で(必要な際に)CBTの対象〜テーマとなりうるものばかりである。すなわち,本書で述べられている「性格の特徴」を臨床現場で扱う営為が,CBTでも実際に日々行われている。
 このようなCBTの立場からすると,@こうした共通経験があるので,日頃CBTを活用している評者にとって,本書の臨床的な有用性〜妥当性に納得がいくように感じますし,ACBTのテーマとなりうる諸特徴を性格類型にまとめ上げた点に,本書の新味と独創性があると思います。評者が,読者諸賢に本書の味読をお勧めする所以です。