『災害精神医学入門−災害に学び,明日に備える』

高橋 晶,高橋祥友編
A5判/200p/定価(3,000円+税)/2015年7月刊

評者 小谷英文(PAS 心理教育研究所)

 医療従事者だけでなく,誰もが読むべき,読んで欲しい本である。この時代,自然災害あるいは人災は,誰もが被災者になりうるし,誰もがまた支援者になりうるからである。東日本大震災が私達に教えた最大の課題がそのあたりにあった。自然災害であれ,メガ災害になるとそこに必ず人災が伴う。大災害がもたらす破壊は,支援者,物資のインフラのみならず,第9章にあるリスクコミュニケーションにも多大な混乱をもたらす。リスクコミュニケーションは,命に関わる安全,安心の道づけに欠かせないものであるが,それは心のケアにも直結する。東日本大震災は,我が国の行政,報道,教育機関にリスクコミュニケーション能力のないことを露呈させた。リスクコミュニケーションの過誤が,第1章,第4章で説明されているASDさらにはPTSDの侵入,過覚醒,回避の症状に現れる。第4章にはトリアージの必要性が述べられている。我が国では精神医療領域における発展はこれからとして現段階での最小限の提案が成されている。災害救急医療現場には言うに及ばず,最速最適救急処置,搬送,そして心的障害の発症対応の捌きがいる。トリアージチームに,メンタルヘルスの専門家は欠かせない。先進のアメリカでは当然のこととされているが(『不測の衝撃』金剛出版参照),我が国では見落とされている大きな課題である。震災発生後,多くの行政,報道,教育機関の責任者に会って来たが,これら災害対応のマスレベルのリスクコミュニケーションに,さらには救援活動のアクショントリアージが必要であることの認識は,非常に薄いものであった。大災害の衝撃に対応して心を守ることは,日常の各部署,各専門の孤立した仕事では不可能である。確かな指針を持って,実行するインフラ構築が何より重要であり,そのために部署,専門を超えて,災害時のさまざまな心の反応と可能な対応について正確な知識を持つことが必要である。本書はその基本知識を最新の知見を持って示すものである。筑波大学に災害支援学を開設されて4年でこの貴重な仕事を果たされている高橋祥友教授他3人のスタッフに敬意を表するものである。日本を代表する研究機関としてさらなる発展を期待する。トリアージを始め,大災害発生後の初動−初期対応の弱さは,心を守ることに大きな痛手を残す。本書で強調される「心的外傷後の成長」を期待するためには,発生当初から心の問題に向き合い,相互の助け合いの中でその過程を意識し,必要な知識と技術を活用する風土を作らなければならない。初期対応の弱さから被災者個人の心の問題が語られることなく潜伏してしまい,遅発性PTSD他,中長期の不測の問題を多々生んでいる現実が,今なお東北にある。本書に続く中長期の今そして新たな不測の衝撃に応ずる災害精神医学の展開を,強く期待するものである。