筆者は三十余年の間,家庭裁判所調査官として,少年事件に携わってきた。本書は,少年やその家族との出会いの中で,どのように立ち直りを支援することができるのであろうかと考え,悩んだことが出発点になっている。
 本書では,二つの視点から立ち直りについて検討した。少年の視点と社会の視点である。
第一の少年の視点から導き出されたのは,少年の抱く疎外感情と疎外感情を生み出す社会からの排除である。少年や家族は,社会から排除されることを恐れて,「よい子」,「よい親」を演じようとする。その結果,あるがままの姿は抑圧され,疎外感をいっそう深める悪循環が見られた。
 第二の社会からの視点では,社会はなぜ少年の受入れに難色を示すのか,検討した。社会の人々の目には,個々の顔をなくしてモンスター化された少年たちの姿が映し出されており,しかも気づかないうちに,隣人として少年たちが暮らしているのではという不安に脅かされていることがわかった。
 この二つの視点から導き出された課題は,実はコインの表裏の関係にある。社会の人々は,個々別々の少年の姿を見ようとせず,あるいは見る機会がなく,他方で少年や家族は,あるがままの姿を見せることができない。少年・家族と社会が,相互に実像と接することを避けていること,すなわち対面した関係性の欠如が,少年の立ち直りを実現させるうえでの課題であると考えた。
 菊池寛の小説『恩讐の彼方に』では,被害者と加害者の対面した関係性により,新たなつながりが生み出されることが描かれている。立ち直りには,対面した関係性により,少年と社会をつなぐ必要がある。すなわち,少年に関心を寄せる「人」の存在が不可欠である。調査を終えて少年と別れるときに,「よい人に出会ってほしい」と願うことがあった。家裁での短いかかわりでは,うまく誰かにつなぐことができなかった,そんな力不足を思い知らされるときに浮かぶ願いであった。その願いを社会的な仕組みとして具体的な形にしたのが,「人を組み入れた立ち直り支援モデル」である。

 本書は,大阪市立大学大学院生活科学研究科での博士論文をもとに加筆修正したものである。今までの調査官生活の集大成を書こうと大いに意気込んでしまい,右往左往した4年間を,あたたかく見守ってくださった主査の畠中宗一先生に,心から感謝いたします。また丁寧に論文指導いただきました副査の中井孝章先生,岩間伸之先生にお礼申し上げます。
 提言した立ち直り支援モデルは,まだ青写真の段階である。立ち直り支援の第一線で働いておられる更生保護の専門家に,ぜひご意見をいただきたい。また元少年や保護者の方にも声を聞かせていただきたい。
 最後になりましたが,不慣れな筆者に的確なアドバイスを下さった金剛出版の立石正信氏のお蔭で,本書を上梓することができました。ここに感謝の言葉を申し上げます。
 本書の出版に際して,平成27年度科学研究費補助金「研究成果公開促進費(学術図書)」の交付を受けたことを付記します。

2015年
廣井いずみ