SMARPP(スマープ)は,薬物やアルコール依存症の方の回復を支援するための治療プログラムです。私たちは,薬物やアルコールの問題を抱えた当事者の方,そして,その周りで困っているご家族や援助者の方々のために,少しでも回復に役立つ情報を届けたいと思い,このワークブックを作りました。
 前身となるプログラムも含めると,松本先生が中心となってSMARPPプロジェクトを立ち上げてから,もうすぐ10年になります。私は,その立ち上げの段階から,開発チームの一員としてかかわってきました。当時の私は,矯正施設から医療機関へと臨床現場を移したばかりであり,正直なところ,薬物依存症を「病気」として捉えることに多少の戸惑いもあったことを覚えています。薬物・アルコール依存は,自らが引き起こした違法行為・問題行為という側面もぬぐえませんし,本人の問題意識と周囲の困り感のギャップ,やめますといったそばからまた使ってしまう行動の伴わなさなどを目の当たりにすると,「やっぱり刑務所に行って懲りてもらうしかないのでは……」との思いを捨て去ることができなかったのです。
 でも,いまはもうそうは考えなくなりました。たんに刑罰のみでは薬物・アルコール依存症からの回復はむずかしいこと,依存症は自分の意思ではどうにもならない,「病気」と考えて適切な支援を受ける必要があること,再使用の有無にこだわらずにまずは治療ブログラムをつながり続けること,そして,そのような継続性が最終的によい転帰をもたらすこと。こうした考えを,依存症に苦しむ本人はもちろんのこと,その人を支援する家族や援助者も共有することが大切です。私自身,そのように理解するようになってから,患者さんへのかかわりがとても楽になったと感じています。
 SMARPPの中では,依存症は病気であり,治療が必要であり,たとえすぐに使用が止まらなかったとしても,何らかの支援につながり続けていれば,ほんのわずかでも良い方向に近づいていくはず,というメッセージを繰り返し送っています。こうしたメッセージのなかには,この10年のあいだにプログラムに参加したたくさんの先輩患者さんの声と,支援者の思いが詰まっています。もしかしたら,ワークブックのなかに出てくるさまざまな対処スキルの習得よりも,こうしたメッセージがみなさんに届くことの方が大事なのかもしれません。
 でも,誤解をしないでください。私たちは,このワークブックで勉強したからといって,それだけで依存症を克服できるとは思っていません。「ワークブックに取り組む」という行動は,これから続く長い道のりの,はじめの一歩です。ワークブックに取り組んだ後は,ぜひ巻末の相談機関リストを参考にして,どこか身近な支援機関に連絡をとってみてください。相談全国各地の精神保健福祉センターや医療機関,民間回復施設等に行き,実際のSMARPPに参加してみるのもいいでしょうし,自助グループに参加してみるのもいいと思います。依存症のことを理解してくれる人との出会いは,回復にとって欠かせない要素の一つです。
 本書が,薬物・アルコール依存の問題に悩んでいる方々の一助となり,実際の援助者・支援機関とのつなぎ役となることを願っています。

2015年4月
著者らを代表して 今村扶美