『子どもの怒りに対する認知行動療法ワークブック』

D・G・スコドルスキー,R・スケイヒル著/大野 裕監修/坂戸美和子,田村法子訳
B5判/230p/定価(3,000円+税)/2015年7月刊

評者 日下華奈子(東京大学大学院教育学研究科)

 本書は子どもの怒り,攻撃性に関する最新の知見を示し,それらに基づき,子どもたちが日々の生活のなかで怒りに巻き込まれることなく,適切な対処スキルを獲得できるように,系統立てられたプログラムで構成された内容となっている。
 子ども(8歳.16歳)にむけて,ユニークかつアイディアに富んだ図解のワークシートは,子どもの動機づけを高め,ステップバイステップで取り組みやすい工夫が満載である。
 以上をふまえ本書の特長を2つ挙げてみたい。
 通常,認知行動療法では,クライエントとセラピストが協働し積極的に問題解決にあたるため,クライエントの動機づけとケースフォーミュレーションが鍵となる。しかし本書では「@ケースフォーミュレーションを行わない Aスキーマ(中核信念)を扱わない Bアジェンダ設定をクライエントとセラピストが協働で行うことをせず,プログラムの中で最初から決められている。」(p220)となっている。これには理由があり,子どもへの認知行動療法の適用可能性の広がりを期待し,専門職以外の多くの領域で活用できる汎用性の高さを目指すためである。これがひとつめの特長である。
 ふたつめは,親セッションの内容が充実している点であろう。訳者は「子どもたちに,最初からいきなりこのプログラムを行うことは勧められないということである。」(p221)と指摘している。
 自身の実践経験も述べると,虐待予防プログラムの一環でペアレントトレーニングを行っている。対象は,イライラして子どもに手をあげそう(またはあげた経験がある)親,子どもの行動への対応に試行錯誤している親である。とりわけ参加する親が期待することに,子どもの癇癪や怒りへの対処を知りたい,という声は多い。実際に子どもの怒りや癇癪のエピソードを紐解いていくと,親のイライラが子どもの怒りを招き,それに反応した親が子どもの怒りを沈めようとさらに怒り……と,負のループにハマっていくパターンはよくみられる。
 ほめる,指示する,予告する,警告する,などの方法を通して,子どもにとって望ましい行動(本書では“攻撃的でない行動”)を増やすことがペアレントトレーニングの目的である。「ほめる」ことの意味,「ほめ方」について特に意識してこなかった,と語る親,「親の対応,注目の仕方が変わるだけでこんなに子どもの反応が変わるんですね」と感想を述べる親など,親の子どもへの注目の変化が子どもの肯定的な行動を増やしていくことに立ち会える嬉しい現場だ。
 「子どもを取り巻く環境のどこかに問題がないのかを見渡さねばならない。(中略)社会や家族の問題,それが子どもに凝集され,子どもの情緒に影響を与えていることは意外とよくあることである。見逃してはならず,十分に気をつけねばならない。」(p221)という訳者(福祉領域からのご経験から)からのメッセージは,子ども支援に携わる者としては特に響く,共感できる内容である。

原書:Sukhodolsky DG, Scahill L : Cognitive Behavioral Therapy for Anger and Aggression in Children