『学校現場から発信する子どもの自殺予防ガイドブック―いのちの危機と向き合って』

阪中順子著
A5判/224p/定価(2,800円+税)/2015年8月刊

評者 勝又陽太郎(新潟県立大学)

 本書は,若者の自殺予防に携わる者にとって,待望の一冊であるといっても過言ではないだろう。正直に告白すれば,目次を一読した段階では,新しい発見をさほど期待していたわけではなかった。しかし,実際に読み進めるにつれて,新しい研究や実践のアイディアがどんどん思い浮かび,瞬く間に本書は付箋とメモだらけになった。読了後,評者は自身の勝手な思い込みを恥じつつも,今後の新たな展開に向けて重要な示唆を与えてくださった著者と本書に感謝の気持ちでいっぱいになった。
 著者の阪中順子氏は,公立小中学校の教員やカウンセラーとして,長年にわたって学校における自殺予防教育を実践されてきたパイオニア的存在であり,本書では著者がこれまで取り組んでこられた自殺予防プログラムの内容を中心に,詳細な報告がなされている。
 もっとも,こうした現場からの実践報告は,しばしば著者の主義主張を並べてあるだけの「現場主義的」報告になりがちであるのも事実である。しかし本書では,プログラムの背景にある理論や調査データ,およびプログラム実践だけでは漏れ落ちてしまう各事例への個別対応の実践例についてまで丁寧に触れられており,まさに科学者−実践家モデルに基づき記述された貴重な実践報告であると言えよう。実際,本書で紹介されている自殺予防プログラムは,著者もその委員の一人となっている「文部科学省 児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」が2014年に示した「子供に伝えたい自殺予防―学校における自殺予防教育導入の手引」において,その一部が実践事例として取り上げられてもいる。
 また,本書で取り上げられている自殺予防プログラムには「いのちの授業」というタイトルが付されているものの,内容は「いのちを大切にせよ」という大人から子どもへの一方的な価値の押し付けとはほど遠いものとなっている。むしろ,本プログラムでは,子どもたちが「いのちの大切さ」を理解していないのではなく,「どのように大切にしたらよいのかがわからない」といった前提に立ち,従来から学校で実施されてきた「生と死を考える授業」や心理教育的授業などを自殺予防の下地をつくる授業として位置づけつつ,子どもたちの「援助希求の促進」と「心の危機の理解の促進」の2点を核となる授業の目標として定め,健康教育的視点から自殺予防教育をとらえ直そうと試みているのである。こうした視点が,教育関係者だけでなく,多くの大人に共有されていくことを願ってやまない。
 ところで,本書で描かれた著者の経験には,ほぼすべてと言っていいほど他の教員との連携エピソードが併記されている。実は本書の裏のテーマは,教員や専門家同士での支え合いの促進なのでは,などと勝手な想像はふくらむばかりである。