『学校現場から発信する子どもの自殺予防ガイドブック』

阪中順子著
A5判/260p/定価(2,800円+税)/2015年8月刊

評者 高橋祥友(筑波大学医学医療系災害精神支援学)

 最近では,子どもの自殺が生じると,その原因として「いじめ」ばかりに焦点が当てられる。評者が高校生だった1970年代には,青少年の自殺の原因をマスメディアがかならず「受験地獄」としていたのと,根は同一である。しかし,子どもの自殺はさまざまな原因が複雑に関与して起きる複雑な現象であることを,臨床家ならば誰もが経験しているだろう。もちろん,いじめがわが国の現代社会における深刻な問題であることを否定するつもりはないのだが,子どもの自殺をいじめの視点だけからとらえようとすると,自殺の一面だけしか理解できず,ごく一部の自殺しか予防することはできない。
 本書は,子どもの自殺予防について正しい知識を学びたい人にとって,まず手に取るべき良書である。著者は長年にわたり小・中学校で教諭として自殺予防活動に関与し,そして,キャリアの半ばで兵庫教育大学で修士号を得て,その後,臨床心理士の資格も取得している。本書は学校現場も臨床の場もよく理解している著者が著したものである。さらに,著者は文部科学省の「児童生徒の自殺予防に関する調査研究協力者会議」が2006年に発足以来の委員であり,米国マサチューセッツ州やメイン州における青少年の自殺予防教育を視察した経験を通じて,海外の自殺予防教育についても本書では紹介されている。
 本書では,学校現場で一般の教諭が身につけておきたい自殺予防の基礎知識が,著者自身の経験に基づいて丁寧に解説されている。さらに,生徒を直接対象とした自殺予防教育の実際についても詳しく解説されている。自殺予防教育は,善意だけでは進められない。関係者とのネットワークを築き,十分に安全を確保したうえで,この種の教育を進める必要がある点についても,丁寧に解説されている。自殺予防に関する著者の研修会は,その人となりがよく現れた温かい雰囲気に満ちているのだが,本書を読んでいても,その雰囲気が伝わってくる思いがする。
 なお,子どもの自殺は家族全体の病理を代表して表していることがしばしばある。そのために,親自身が余裕を失ってしまっていて,子どもが必死に発している救いを求める叫びを受けとめられていない状況で,自殺という最終的な悲劇が起きてしまうことがある。このような場面で,学校で子どもと長時間にわたって接している教師が,子どものSOSに早い段階で気づいて,子どもを救うばかりでなく,親も救っていることがある。そこで,子どもの自殺の危険の特徴について教師が正しい知識を持ち,適切な対応を身につけることができれば,これまで以上に子どもの生命を救うことにつながるはずである。
 子どもの自殺予防について関心のあるすべての人にとって,本書は必読の書である。