『スキーマ療法実践ガイド−スキーマモード・アプローチ入門』

アーノウド・アーンツ,ジッタ・ヤコブ著/伊藤絵美監訳/吉村由未訳
A5判/360p/定価(4,400円+税)/2015年9月刊

評者 鈴木孝信(赤坂クリニック/東京多摩ネット心理相談室)

 本書は,スキーマ療法の実践のみならず,パーソナリティ障害の治療に取り組む際に,非常に役立つ書籍である。不安障害とパーソナリティ障害を専門に研究するアーノウド・アーンツ(Arnoud Arntz)と,認知療法・スキーマ療法の実践家であるジッタ・ヤコブ(Gitta Jacob)が筆を執る。アーンツは,さまざまなパーソナリティ障害に対するスキーマ療法の効果について調査を行っており,最新の多施設共同試験では,スキーマ療法がさまざまなパーソナリティ障害の改善,うつ病性障害の改善,また全般的・社会的な機能の改善に役立つことを見出している(Bamelis et al, 2014)。
 本書は,特にパーソナリティ障害に対して有効なモードアプローチを,実践で応用しやすく紹介している。T部では,スキーマモードのモデルに基づいた,ケース概念化が解説されている。豊富な事例を通じて,早期不適応スキーマ概念を含むスキーマ療法,モード概念,そしてモード概念の来談者への提示について解説されている。U部では,治療について解説されている。スキーマ療法で定義される5つのモードグループに対して,治療関係,認知的技法,感情的技法,行動的技法という視点から,特にパーソナリティ障害に対するモードアプローチが解説されている。
 本書全体を通じて事例が豊富に紹介されており,論じられている理論の理解がしやすい。また各章に「よくある質問」が設けてあり,読者が理論や技法に対して持つようなクリティカルな疑問点についても触れられている。来談者と率直に向き合うモードアプローチらしさが感じられる。
 また本書であまり触れられてはいないが,パーソナリティ障害に対するモードアプローチを含めたスキーマ療法の経済性について触れておきたい。アーンツ含む,スキーマ療法の研究者たちが行った2009年の調査では,外来で治療を受ける境界性パーソナリティ障害患者に対して,通常(週2回のセッションを3年間)よりセッション頻度を抑えた短期間(週2回のセッションを1年,週1回のセッションを半年)で治療が成功していると報告している(Nadort et al, 2009)。また2014年の多施設共同試験では,1週間に1セッションのペースで50セッションのスキーマ療法を実施し,さまざまなパーソナリティ障害に対する有効性が示されている。ドロップアウト率も低く,スキーマ療法はさまざまなパーソナリティ障害の治療法として有効性のみならず経済性をも示していると報告されている。
 私もスキーマ療法を実践する傍らさまざまな治療法を展開する臨床家であるが,折衷的なアプローチにおいても来談者をモードアプローチの視点から概念化して理解することは役立つように感じる。特に重篤な病状を呈し長期的な治療となりがちなパーソナリティ障害の治療には非常に有用であろう。こういった視点からも,スキーマ療法およびパーソナリティ障害の治療に興味がある治療家や研究者は,是非手に取って熟読して頂きたい一冊であると私は感じる。

文  献
Bamelis LL, Evers SM, Spinhoven P et al(2014)
Results of a multicenter randomized controlled trial of the clinical effectiveness of schema therapy for personality disorders. American Journal of psychiatry 171(3); 305-322.
Nadort M, Arntz A, Smit JH et al(2009)
Implementation of outpatient schema therapy for borderline personality disorder : Study design.Behaviour Research and Therapy 47 ; 961-973.

原書:Arnoud Arntz & Gitta Jacob : Schema Therapy in Practice : An Introductory Guide to the Schema Mode Approach