『ケースで学ぶ行動分析学による問題解決』

日本行動分析学会編/山本淳一,武藤 崇,鎌倉やよい責任編集
B5判/232p/定価(3,600円+税)/2015年9月刊

評者 西川公平(CBTセンター)

 日本行動分析学会が編集したこの本は,応用行動分析(以下ABA)を日常臨床のみならず,日常生活にも運用していく上でさまざまなヒントが詰まった一冊である。
 私はABAに関する知識や技術は心理士,教師,保健師や医師などにもっと広まって欲しいと思っている。当CBTセンターでも,老若男女,障害を問わずABAは使える実感がある。百花繚乱の臨床心理学の中で,基礎から臨床までがそれなりに首尾一貫しているのはABAだけである。
 本書では,冒頭24ページほどでABAの“基本的な問題解決の姿勢”が書かれ,残り175ページ22章の各論として“さまざまな困りごとに対する運用実例”が書かれている。各論ごとにも理論や実践の説明があり,とても分かりやすく読みやすい。基礎理論の説明に莫大な頁を割くこれまでのABAの本に比べて,画期的にユーザーフレンドリーだ。私の考えるABAの特徴は「良きにつけ悪しきにつけ行動観察記録に基づく」こと,つまり実存的な日常生活に立脚して介入を運用する点にある。その利点はセラピストの私的事象(ルール支配や,情動や,妄想)でクライアントに迷惑をかける危険が減ることで,欠点は面倒(コストが高い)なことである。逆に言えば,そこでABAとそれ以外が分けられる。
 その点で,各論は玉石混交である。なんら行動観察に基づかない機能分析がなされている章もある(特にACT)。ACTが有効かどうかはさておいても,結局ACTとはABAと何の関係もないのだという事がクリアに判る。
 また,ABAの間接的介入時,つまりセラピストAがB(親や教師)に関わり,BがC(子どもや生徒)に関わるといった構図において,あたかもAがCに直接観察し関わったかのような,記述上の不正行為が目立つ章もあった。この不正行為はABAの普及を妨げるだろう。すなわち,「本の通りBに説明したのに,Bは思ったように動いてくれず,当然Cも変わらず,ABAって役に立たない」。
 これは,これまでABAが真に必要な行動観察・機能分析ではなく,単に観察しやすさ/説明しやすさで行動観察・機能分析をしてきた弊害だろう。そこに自覚的に丁寧な説明がある章もあれば,何の言及もない章もあった。そしてセラピストAの行動が機能分析されている章が本当に少なかったのは残念である。
 まとめて言えば,ABAは自傷する自閉症のようなケースに対する介入では,実にABAらしい記述ができるセラピーだが,コンサルテーション/教育/セラピーそのものなどのように,より複雑な人間の社会的活動に対してはABAらしい記述ができず,結果的に無視するか,ACTのようなABAとかけ離れた記述にするか,どちらかしかできない。
 最後にpublication bias について述べると,第33回の日本行動分析学会の発表演題は,ほとんどが先に述べたABAにとって記述しやすい発表であった。ゆえにABAを広く日常臨床まで使う人も例外的にいるのかもしれないが,発表を観る限り個々の学会員の興味はそこまで広くないのであろう。