『やさしい思春期臨床―子と親を活かすレッスン』

黒沢幸子著
A5判/304p/定価(3,200円+税)/2015年9月刊

評者 井出 恵(森田療法研究所/北西クリニック)

 思春期例の難しさは,成長の過程であり発達を促進していかなくてはならないこと,そして家族を扱う必要性があることだろう。この二つの困難性を,むしろ治療に活かし成長の糧としていくエッセンスが,本書には散りばめられている。
 まえがきにあるように,本書のタイトル「やさしい思春期臨床」の“やさしさ”には,シンプルでわかりやすいだけでなく,素直で悪影響を与えないといった意味も含まれる。逆に言えば,成長の可能性のある思春期例に悪影響を与えるような“やさしくない”治療的アプローチへの反省も促される。思春期の子どもと親をともに活かし,問題維持の“悪循環”ではなく,解決の状態を増幅する“良循環”を目指す姿勢が貫かれている。
 本書は3部構成から成り,第1部は思春期の親子への理解を深める理論編である。従来のブロスやエリクソンの発達段階を示しながら,先行研究やデータで現代的な思春期の傾向を解き明かす。児童期が短縮化され青年期への移行が曖昧で,長期化している現代の思春期の特徴が整理されていてわかりやすい。さらに,詩人伊藤比呂美の思春期親子の描写を引用することで,理解を一層“やさしく”している。
 第2部は思春期臨床の実践事例編である。六つの中学生例と二つの高校生例が,大変細やかに具体的に提示されている。一例一例がいきいき描かれていてどんどん読むことができ,読後自然と著者の目指す悪循環から希望へと流れを導く臨床の姿勢が浮かび上がって来る。いかに悪循環を断ち良循環を拡張していくか,時折出てくる症例の“売り”を活かす視点は印象的である。また,個人療法や家族療法などの枠にとらわれず,その環境における資源やキーパーソンを柔軟に活かし協働する統合的なアプローチの実際を学ぶことができる。第2部の最後の発達障がいの事例では,しっかり見立てることの重要性と,それに基づき自分自身を知り自律/自立を目指す援助のポイントが大変参考になった。
 第3部は思春期臨床の「種明かし編」とのことで,第1部・第2部を踏まえ,臨床のスタンス,役立つ対応のポイントと留意点などがまとめてある。
 著者はブリーフセラピーの専門家と聞く。この本にはブリーフセラピーで使われる質問などは時折でてくるが「ブリーフセラピー」という言葉そのものは出てこない。マニュアルとしてではなく,思春期例に向き合うための,技法を乗り越えた基本となる姿勢を伝えたいという著者の意志が感じられる。そしてその目的は十二分に果たされている。思春期例に関わる人に大いに参考になる良書である。