『新装版 リフレクティング・プロセス―会話における会話と会話』

トム・アンデルセン著/鈴木浩二監訳
A5判/176p/定価(3,200円+税)/2015年10月刊

評者 伊藤順一郎(メンタルヘルス診療所 しっぽふぁーれ)

 本書は,最近我が国でも注目されているオープンダイアログの基礎となっているといってもよい,リフレクションを伴う対話の仕組みと,そこから現れる言葉についての発想のふくらみについて述べています。
 リフレクションについては,リフレクティングチームが具体的な姿として提示されています。それは,治療的な対話を行っている家族と面接者(面接システム)と,それを観察するチーム(リフレクティングチーム)がいて,まず面接システムの対話をリフレクティングチームが聴き,ある時点で今度はリフレクティングチームが聴いたことをもとにした対話を始め,それを面接システムの人々が聴き,その後,面接システムの人々は再び聴いたことをもとにして対話を始め,リフレクティングチームはその対話を聴く,ということを繰り返すものです。具体的な対話のありようも含めたノウハウや背景にある理論的枠組みについては,本書の第T部で述べられ,第U部では具体的な対話の逐語録が抜粋ではあるが載せられており,リフレクティングのプロセスがどのように進みゆくのかが臨場感をもって感じられます。
 著者の立場は,システムが問題を生み出すのではなくて,問題がシステム−苦悩のなかから出現する意味システムを生み出すのであり,治療の単位はその意味システムに寄与しているすべての人であり,そこには治療にあたっている専門家も包含される(ハーレーン・アンダーソン&ハロルド・グーリシャン)という立場でありますが,リフレクティングチームの実践を通して,著者は意味システムにかかわるにあたり,さまざまな意味が出現してくる環境をつくるひとつの方法を編み出したということができるかもしれません。
 評者が読み解くに,この環境において鍵概念となるものは「交換」ということのように思います。たとえば,それは聴くことと話すことのあいだの交換(行ったり来たり)であったり,外的対話(他者との語らい)と内的対話(自分自身との語らい)の交換(行ったり来たり)であったりするわけですが,意見の交換の自由があり,参加しているすべての人が安全な状態であることを保障されている時,そのような環境で知ったり,感じたり,行ったりするなかで生れる新しい意味や,その人がすでに蓄積している可能性のあるものを用いた新しい意味が浮かび上がってくる可能性があることを著者の実践やその理解は示しています。
 なお,本書第V部は改版ごとに行われたエピローグの書き直しというリフレクションなのですが,実践を変化させつづける主体,また,そこで起きていることを理解しようとする主体として,問いつづける著者の姿が立ちあらわれ,大変興味深い内容となっています。「我々は言語の内に,行動の内に,会話の内に,共同体の内に存在する」という一節がありましたが,そこにはわれわれの存在そのものが関係性の中に常に変化しながらあることが示されています。次の一文には,そのようなわれわれが対話の中で何をなしうるかについて問いかける著者の姿が端的に示されているよう思いました。
 「我々が,彼には不安があるとか,かなり攻撃性があるとか,よい思い出があるとか,わるいことを意図しているといった言い方をするのをやめて,私には彼が怖がっているように感じるとか。怒っていると感じるとか,よく覚えていないように思えるとか,私には彼の望んでいることが好きになれない,といったように言ってみたらどんなことがおこるだろうか?」

原書: Andersen T : Reflecting Process : Conversations and conversations about the conversations