『コンシューマーの視点による本物のパートナーシップとは何か?―精神保健福祉のキーコンセプト』

ジャネット・マアー・AM著/野中 猛監訳
A5判/130p/定価(1,800円+税)/2015年12月刊

評者 伊勢田 堯(代々木病院)

 本書は,40年以上も統合失調症と付き合い,そのうちの10年間は施設に収容されていたオーストラリアのジャネット・マアーによる,自身のリカバリーの旅とともに生まれたコンシューマー運動の過程と到達点を著した第3 版(2002年)の日本語訳である。マアー女史は,オーストラリア精神保健福祉コンシューマーネットワークの設立者の一人で,世界精神保健連盟の名誉幹事を務めるなど国内外で精力的に活動してきた。初版は1995 年で,日本語初版(2000年)は山本和儀訳で世界精神保健連盟日本支部から出版された。本書は,マアー女史と訳者たちが知り合うことになったオーストラリア視察団の団長を務めた故・野中猛先生に捧げられた。
 本書の主な構成は,第1章「背景」,第2章「何が,問題なのか?」,第3 章「パートナーシップ」,第4章「エンパワメント」,第5章「アドボカシー」,第6章「参加」,第7章「成功しているコンシューマー組織」,第8章「訓練」,第9章「リハビリテーション,リカバリー―自己決定を通して」,第10章「何が,答えなのか?」,第11章「パートナーとしてのコンシューマーとは?」,第12章「それは失敗? それとも,チャンス?」,第13章「あなたがやっていることは,わたしにはできません!」,第14章「あなたのことを何と呼んだらいいでしょうか」,である。
 彼女自身の人生とコンシューマー活動家としての長期の国内外の幅広い活動と経験に裏打ちされているだけあって,精神障害に対する見方と運動論には深い見識が織り込まれている。箇条書き的な記述ではあるが,ハウ・ツウものではない。
 特に,7章から13章までは集大成というべき内容で,いちいち納得がいくものである。たとえば,コンシューマー活動ではカリスマ性のあるリーダーに頼らないこと,ケアワーカーには症状に焦点を当てた医学モデル・障害モデルのリハビリテーションに陥ることのないように示唆するなど深い洞察に満ちている。
 パートナーシップ,エンパワメント,リカバリーの理念の重要性と先駆性に異議を唱える人はいない。しかし,当事者中心の地域ケアが発展しているオーストラリアであっても,その真意を理解し,実践している人は少なかったようである。
 現在では,日本を除く先進的諸国と地域では,コンシューマイズムやリハビリテーションモデルを超えて,当事者と専門家が対等な立場で政策立案とサービス開発をするコ・プロダクションの時代に突入しつつある。彼女の実践と主張はこうした新しい時代を呼び込むものとなっている。
 われわれも,本書の“本物”のしかも洗練された理解者にならなければならない。そうなるなら,我が国の「あり方検討委員会」による政策決定システムや医学モデルの治療・リハビリテーションモデルによる地域ケア体制を超えた新たな時代をもたらすための改革に乗り出す勇気が湧いてくるはずである。当事者・家族・治療者・支援者・行政に携わるすべての人たちに是非目を通してもらいたい書である。

原書:Meagher JAM : Partnership or Pretence : A handbook of empowerment and self advocacy for consumers of psychiatric services and those who provide or plan those services