『心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門―エビデンスを「まなぶ」「つくる」「つかう」』

原田隆之著
四六判/280p/定価(3,200円+税)/2015年12月刊

評者 杉山 崇(神奈川大学人間科学部)

 この本の帯のコピーは「この一冊でエビデンスへの誤解を一気に解決!」である。“大きく出たなあ……”と思いながらも,サブタイトルの「エビデンスを『まなぶ』『つくる』『つかう』」を見て“単なる大きなことを謳った本ではない”という確信も持った。なぜなら,サブタイトルの「まなぶ,つくる,つかう」はエビデンス理解への本当に重要な3つのアプローチだからだ。“この著者は心理療法におけるエビデンスの何たるかを本当に知っているのではないか……”という期待を十分に持たせてくれるタイトルだ。読み終えた感想としては,著者なりのエビデンス観は十分に表現されていた,私の期待通りの,タイトルに遜色ない内容と言えるだろう。
 本書はエビデンスを通して心理療法を捉え直す方法を読者に提案する形をとっている。多くは語り口調で書かれており,専門書然とした堅苦しい表現は極めて少ない。エビデンス重視のアプローチに馴染みがない心理職でも抵抗なく読み進めやすいだろう。新聞の切り抜きなど,実例を豊富に取り入れて直観的に理解しやすい工夫もなされている。
 第2章のエビデンスに対する批判では,「これでもか」と言わんばかりに半ば「言いがかり」に近いような批判まで取り上げている。私だったら“非科学的な屁理屈?”と頭を抱えるような批判も取り上げて丁寧に反論している。著者が本気でエビデンスの何たるかを読者に伝えようとしていることが伝わってくる。本書は全体的に著者の人柄を感じさせる言い回しが多い印象があるが,特に第2章はその印象が強かった。もしかしたら,エビデンスに馴染みがない心理職の皆さんは第2章から読むとライブ感があって本書に引きこまれやすくなるかもしれない。
 「第2部 エビデンスをつくる」は,心理療法研究法とも言えるような内容で,すべての心理療法家に学んでほしい内容である。というのもここで紹介されて
いる「エビデンスのつくり方」は,研究成果としてまとめるために必要なだけでなく,「自分自身の介入の何が役に立っていて何が無意味なのか」を理解するための考え方でもあるからだ。私たち実務家は自分の仕事の「役に立っているところ」「無意味なところ」「余計なところ」を常に把握しながら対象者に対応する必要がある。しかし,その把握は,今の大学院レベルの教育では不十分と言わざるを得ない。プロとして仕事をしている以上,自分の仕事を自己評価する物差しは共通基準として持つべきであるが,本書の第2部を中心にこの物差しを考えられるのではないかという可能性を感じた。
 第3部の「エビデンスの使い方」の説明は医学では常識に近いものかもしれないが,「文学部」的な体質が残る日本の心理職には驚きかもしれない。本書はさらに心理療法の「効果」の議論展開も紹介して,読者に「心理療法とは何か?」を問いかけている。心理療法クリエーター向けの病理モデル(異常心理学)のエビデンス生成論の紹介がないのは残念だが,逆に読者を心理療法ユーザーとしての心理職に絞り込んだ良書と言えるだろう。